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ヌーヴェルヴァーグの傑作サスペンスをリメイク
新鮮味がまったくない凡庸な作品に

『死刑台のエレベーター』(2010)

(左から)吉瀬美智子と阿部寛【Getty Images】

製作国:日本
監督:緒方明
脚本:木田薫子
オリジナル脚本:ルイ・マル
キャスト:吉瀬美智子、阿部寛、玉山鉄二、北川景子

【作品内容】

1958年公開のフランス映画『死刑台のエレベーター』は、2010年に日本映画としてリメイク。原作はノエル・カレフ、監督は鬼才ルイ・マルによるフランス・ヌーヴェルヴァーグの代表作といえるサスペンスだ。

【注目ポイント】

それを50年以上の時を経て、現代の日本でリメイク版を製作するという無謀な挑戦ともいえる。時代設定が変われば、変えざるを得なくなることは山のようにある。それは何も、ありきたりな時代考証や物語の流れだけではなく、登場人物の心理描写や会話の一つひとつも、すぐにかみ合わなくなってしまうことは自明の理だ。

ところが、このリメイク版は、見事なまでにオリジナルをなぞって作られている。“完コピ”といっても差し支えないほどだ。キャストも吉瀬美智子、阿部寛、玉山鉄二、北川景子と、一流の俳優を揃えている。

ではなぜ興行的に失敗したのか。“完コピ”作品にしたことで、「ではなぜ、この作品が製作されるに至ったのか」との疑問が生じてくる。オリジナル版の『死刑台のエレベーター』に限らず、不倫をきっかけにした殺人サスペンスのストーリーは山ほどある。その中であえて本作のリメイクに挑んだ心境としては、ヌーヴェルヴァーグへの郷愁か、『死刑台のエレベーター』という名作の威光に便乗しようとする邪な思いが働いたのかと、推測せざるを得ない。

結果論ではあるが、同作は角川映画による製作であり、同社は翌年、出版と映像の一体化によるメディアミックスの強化を目的として角川書店と合併し、法人としての角川映画は消滅、以降「角川映画」は角川グループの映像事業として細々と生き残ることになる。

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