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②セクシャルマイノリティの抱える困難がリアルに描かれている

昨日何食べた公式Twitterより

シロさんは弁護士という職業柄、自分がゲイであることを公表していない。一方ケンジは職場をはじめ、客にも自分がゲイであることを隠さず、オープンに話している。

本来なら何も隠すことはないことだが、2人の職業柄、ジェンダーに関する価値観が異なるため、何度か衝突してしまう。その中で、ケンジが「どうして俺は一緒に住んでいる人の話をしちゃいけないの? 」と涙ながらに訴えるシーンには胸が締め付けられる。

シロさんの母親(梶芽衣子)は、今でこそ息子の生き方を受け入れているが、彼が学生の頃は「女性を好きになるように」と変な宗教にハマっていた過去を持つ。親としてどう振舞えばいいのか混乱していたのだ。

シロさんの料理仲間で、事情を知っている主婦・佳代子(田中美佐子)は、「私は他人だからこの距離感でいられる。親子だったらどうしていいか分からなくなるもの」と、親の気持ちを分かりやすく言語化してくれる。彼女の言葉に深く頷いた人も多いだろう。

子どもの幸せを願っていることは変わりないが、頭では理解していても、関係が近い分、心がどうしても追い付かずに衝突してしまう。そんな、当事者とその家族のシビアなすれ違いやジレンマを見事に表現しているという点も本作の大きな魅力だ。

ドラマシリーズでは、ケンジが元旦にシロさんの実家を訪れる描写がある。そこでは、ケンジとシロさんの家族が楽しい正月を過ごし、翌年もシロさんの両親と会う約束をするなど、幸福な形で場面が締めくくられていた。

しかし劇場版でのシロさんの母親は、やはり2人の価値観を正面に受け入れることができず「もうケンジさんには会いたくない」とシロさんに言ってしまう。

シロさんは一人息子に女性と添い遂げて欲しかったという母親の想いを汲み取りつつ、自分にとって1番大切なのはケンジだと再認識し、元旦に実家には帰らないと決断する。

現在日本では、同性同士で籍を入れることはできない。そんな世の中で生きていくことは難しく、生きにくさを感じることも多いだろう。シロさんとケンジは、そうした困難を受け入れてまで、愛する人と共に生きて行くことを決める。

本作は、順風満帆な物語ではなく、旧態依然とした価値観が壁として立ちふさがり、それを乗り越えてくストーリーだ。夢物語ではなく、リアルに根ざしたお話であるからこそ、人々の心を掴むのではないだろうか。

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