人間の心の矛盾した葛藤を高い解像度で描く
三番の歌詞は、アイの内側の核心に迫る歌詞になる。なかなか心が読めないアイだが、ここではかなり本音に近い心情を吐露している。1番の歌詞では分からなかった「なぜ嘘をついているのか」の疑問に対して「嘘はとびきりの愛」という答えが出ているからだ。
『いつかきっと全部手に入れる
私はそう欲張りなアイドル
等身大でみんなのこと
ちゃんと愛したいから
今日も嘘をつくの
この言葉がいつか本当になる日を願って』
もちろん、この3番の歌詞の内容は、2番で葛藤を抱えていた、引き立て役である同じグループメンバーに伝えていたわけではないだろう。しかし、たとえ3番の歌詞の内容を伝えていたとて、彼女たちはその考えを拒んだのではないだろうか。
星野アイにとって、嘘は罪悪感ではなく、自分なりの愛を知るための手段だ。そして嘘をついてまで愛を知りたいのは、愛を経験したことがなく、愛に飢えているからではないか。つまり愛は星野アイにとって弱い部分やコンプレックスの部分になりかねない。であれば、同じアイドルグループの子たちは「弱いとこなんて見せちゃダメダメ」と拒むだろう。
アイを嫌っているくせに、いざアイが弱いところを見せようとしても、それは許さない。自分が引き立て役なのは嫌なくせに、アイがお星様以外の役になることは許さない。やっぱり彼女たちの中でアイは精神的支柱の一つなのだ。
現実のアイドルグループにおいてはどうだろうか。よく都市伝説やステレオタイプとして、「センターをめぐる確執」や「女ばかりの集団は、華やかさとは裏腹にいじめが横行している」といったイメージがあるが、実際はそんな表面的なものではないと思う。
もちろん本当に仲がいいグループもあれば、若気の至りで10代の頃にちょっとだけギスギスしてしまったというグループもあるだろう。
だが、それでも何年も仕事を共にする戦友なのだ。時にお星様と引き立て役をめぐる葛藤はあれども、根っこにはトップを張る人物の輝きへの賞賛や尊敬がある。
そういった意味で『アイドル』の歌詞は、人間の心の矛盾した葛藤を、非常に解像度高く描いている名作だと言えるのだ。
(文・唐梨)