“もう”7年だけど、“まだ”7年
自分にとって大切な存在である兄を海里に奪われた悟は、海里の大切な存在(=ほこ美)を傷つけることで、復讐をしようとした。しかし、復讐からはなにも生まれない。ただ、自分の心がすり減っていくだけだ。
しかも、悟の場合は、海里と近づくほどに、彼の心のピュアさを知ってしんどくなってしまったのではないだろうか。大嫌いな相手を、心の底から“大嫌い”だと思えないのも、また辛いものがある。海里が、本物のクズならどれだけ良かったか…と悟はいく度となく思ったはずだ。
「俺は、今でもお前と一緒にいた時間の全部が嘘だったとは思えない」と海里に言われたとき、悟の瞳に光が宿った瞬間があった。ここで、「本当は、許したい。でも、許すことができなくて辛い」と言えたらラクなのかもしれないが、7年ではまだその境地にたどり着くことはできないのだろう。
はたから見たら、“もう”7年も経っているんだから…と思うかもしれないが、大切な人を失った悟にとっては“まだ”7年。もしかすると、同じように立ち止まっている海里を見て、安心していた部分もあったのではないだろうか。
だからこそ、前に進もうとしている海里の足止めをしようとしたのかもしれない。「俺はあんたのことなんか、大嫌いだ。消えてくれ」と言ったときの悟は、心のなかで海里に「ごめんね」と「ありがとう」を繰り返しているように見えた。