現代人が今まさに抱えている問題
一方、朝廷では、刀伊を撃退した隆家たちへの褒賞を巡って実資(秋山竜次)が他の公卿たちと対立。朝廷が追討を命じる前に動いた彼らへの褒章は無用との判断を下す公卿たちに、実資は「都であぐらをかいていた我らが、命を懸けた彼らの働きを軽んじるなぞあってはならぬ!」と強く訴えかける。
これまでも実資の言動はたびたび視聴者に賞賛されてきたが、いついかなる時も政治家としての矜持を失わないその姿勢には頭が下がる思いだ。
そんな実資を道長も信頼しているが、「以前、隆家殿は朝廷も武力を持たねば、やっていけぬようになると申しておりましたが、まことにそうやもしれぬ」という彼の言葉には「武力に頼る世になってはならん!」と強く反論する。
それには同意した上で、「平将門の乱以降、朝廷は軍を持たなくなりました。それから80年がたち、まさかこうして、異国の賊に襲われることになろうとは。もはや、前例にこだわっておっては、政はできぬと存じました」と語る実資。
朝廷が武力を持てば、それがいつか争いの火種になる可能性はある。しかしながら、もしも今回のような出来事が都で起きたら、武力を持たない朝廷は為す術もなく敵に敗れるかもしれない。それは、我々現代人が今まさに抱えている問題だ。
この約150年後、自分たちの子孫が起こした皇位継承をめぐる争いをきっかけに戦乱の世が訪れるとは、まさか道長も思ってみないだろう。いつの時代も、私たちは戦争と隣り合わせの日常を送っていて、争いの火種はどこに隠れているかわからない。
本作は、平和な世にあって、そのことを実感したまひろと道長が戦争というものに立ち向かった物語とも言える。次週、最終回を迎える『光る君へ』。最後に、この物語は私たちにどのようなメッセージを残してくれるだろうか
(文・苫とり子)
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