大きな事件は起きないけど癒された…お正月に放送した意義とは? 新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』考察レビュー
text by 苫とり子
松たか子主演の新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系)が1月2日(木)に放送された。本作は、野木亜紀子によるオリジナル脚本で、“家族の在り方”を描いた新時代のホームドラマだ。今回は、とある人生のほんの1ページを綴った本作のレビューをお届けする。(文:苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
お正月に放送する意義のあるドラマ
多くの人が年末年始を地元で過ごす。久しぶりに家族や同級生に会えるのは嬉しいし、慣れ親しんだ実家でゆっくりできるのもいい。だけど、親から結婚や出産を急かされたり、その期待に応えられないことへの負い目から、親戚の集まりで疎外感を覚えたり。大人になると、そういうことが増え、憂鬱になる人も多いのではないだろうか。
そんな時だからこそ、新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系)は放送する意義のある作品だった。
定年退職を控えたTBSの演出家・土井裕泰の“卒業制作”であり、土井とドラマ『空飛ぶ広報室』(2013 、TBS系)、映画『罪の声』(2020)などでタッグを組んできたが脚本を手がけた本作は、「寂しさ」と「孤独」についての話だ。
鎌倉で暮らすフリー編集者の長女・葉子(松たか子)と、職や居場所を変えながら、ふらふらと暮らす次女・都子(多部未華子)、そして江ノ島電鉄の保線員で、葉子と二人暮らしの長男・潮(松坂桃李)。交通事故で両親と祖母を一度に亡くしてから23年、支え合って生きてきた渋谷家の三姉弟がそれぞれ人生の岐路を迎える。
大きな事件は起きないし、ドラマチックな出会いが降ってくるわけでもなければ、考察しがいのある謎も存在しない。本作で描かれるのは、私たちと変わらない日々を営む、葉子たちの人生のほんの1ページに過ぎないが、新しい年をやさしく照らす月明かりのようだった。