小芝風花が見せてくれた”夢”
「おさらばえ。いつの日もわっちを守り続けてくれたその思い。長い長い初恋を、ありがた山の鳶がらす」
清々しさを感じさせた1回目の「おさらばえ」とは違い、2回目の「おさらばえ」には未練の香りが漂っていた。本当はずっと大好きな蔦重のそばにいて、一緒に夢を叶えたかったはず。
その望みを、身を引き裂かれるような苦しみにも耐え、手放すことができたのは蔦重と鳥山からもらった愛があったから。瀬川は蔦重から教えてもらった本の楽しさと恋の喜びに支えられ、これまで生きてこられた。
その恩を返したのだ。鳥山がそうしてくれたように、自分が身を引き、相手の望みを叶えるという方法で。
瀬川は美しく気高く、でも天真爛漫さも残しており、抱き留めた腕をすり抜けていくような、鶴のような女性だった。そんな彼女には狭い鳥籠ではなく、広い空が似合う。どうか、これからは自由に、できるだけ長く幸せに空を飛び続けてほしいと願わずにはいられない。
小芝風花が俳優として歩んできた13年間の総決算とも言える役柄だった瀬川。放送前から橋本愛演じるていが蔦重の妻として発表されていたため、多くの人は瀬川と蔦重が結ばれないことは分かっていた。
だが、小芝の演技があまりにも素晴らしく、私たちはいつしか2人が結ばれるという幸せな夢を見ていたようだ。その夢から覚めた今、喪失感からは逃れられそうもない。私たちも、蔦重も。
瀬川がそばにいない安永8年を迎え、ついに自分の店を構える蔦重。そんな彼にはもう1つの別れが近づいていた。
(文・苫とり子)
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