圧巻のプロレスシーン
それぞれアクの強い松永三兄弟や、憎めないオッサン感が染み出す阿部四郎など、コク深い男たちの人物描写はまさに白石ワールド。
さらに、ちょっとした小物やポスターにいたるまで凝りに凝った美術や、ファンシーな80年代ファッションが炸裂する衣装も白石組ならではのこだわりだ。ひやむぎをみんなでつつく松本家の食卓描写や、グレた妹のディテールなども完成度が高い。
圧巻なのが、プロレスシーンである。
『極悪女王』は、リング上で展開するプロレスの試合がアクション的な見せ場となるが、四方の観客から囲まれているプロレスの試合を劇映画としてカメラで切り取ることは意外と難しい。
しかし、寄り引き自在なアングルで選手の動きや表情をしっかりと捉え、攻防の間合いを殺さない、絶妙なテンポの編集でまとめた試合シーンは手に汗握る大迫力だ。
特にエピソード3に出てくる、天井から見下ろしたようなアングルで客席からコーナポスト攻撃にドリーアウト(カメラが被写体から離れていく撮影技法)していくカットは斬新。エピソード4の長与VS飛鳥戦における、ジャイアントスイングで回し、回される一人称視点も臨場感たっぷりだった(このときにレフェリーがコーナーに登って退避しているのもリアル)。