兼家の最期
「今宵、星は落ちる。次なる者も長くはあるまい」
安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が宣言した通り、その日、一つの大きな星が落ちた。
ついに兼家が鬼籍に入った「光る君へ」第14回。庭園を一人で徘徊し、三日月を見上げるその顔は穏やかだった。だが、やがて月は赤く染まり、雷鳴が轟く。まるで一族の未来を暗示するかのような不穏さだ。老いによってほとんど正気を失っている兼家だが、その瞬間だけは以前の威厳を放つ。翌日、兼家が庭に倒れているのを道長が見つけた。
兼家の死はおそらく老衰であり、明子(瀧内公美)の呪詛によるものではないだろう。しかし、兼家は誰にも看取られず一人で逝き、その遺体は雨風にさらされた。それは呪詛がもたらしたものかもしれない。明子だけではなく、己の大義のために多くの人を苦しめ恨みを買ってきた兼家。
けれど、家の存続のために命を懸けてきたのは確かであり、それは兼家なりの愛情だったのかもしれないとも思う。死の直後、妾である寧子(財前直見)が詠んだ歌を口ずさみ、「あれは良かったのお。輝かしき日々であった」と言ったのも、自分を支え続けてくれた寧子への感謝を示そうとしたのではないか。立つ鳥跡を濁さずではないが、自分が亡き後のことも見据えて行動していた兼家はやはり偉大と言わざるを得ず、単なる悪人ではなかった。
そんな父の亡骸を抱きしめ、涙した道長。3兄弟の中でおそらく最も冷静に、かつ複雑な心境で父である兼家を見つめていたのは道長だ。尊敬、軽蔑、愛情、憎悪。さまざまな感情を滲ませる柄本佑の鳴咽に、もらい泣きしてしまったのは筆者だけではないだろう。