ただそこにいるだけで必要としてくれる人
打ちひしがれ、椿(松下洸平)の家にたどり着いた紅葉。椿はまだ仕事中だったが、電話で紅葉の話を聞いてくれる。紅葉は、お腹が痛くても「お腹が痛い」と人に言えない。「言ったって治らないから」だし、その情報を与えたところで困らせるだけだと思うからだろう。でも、それに対し椿は優しく返す。「紅葉くんがいまお腹痛いってわかってたい人がいる」と。
牛丼を買って急いで帰ってきた椿。椿と同じく、紅葉の「お腹痛い」をわかっていたいだろう、ゆくえ(多部未華子)と夜々も遅れてやって来る。ゆくえは買ってきた4色(水色、赤、紫、黄色)のマグカップのうち、どれがいいかを紅葉に尋ねる。紅葉が選んだのは黄色。4人が被ることなく、それぞれ好きな色を手にすることができた。
アトリエから紅葉がいなくなった後、篠宮は自らが書いたブランコの絵を塗り潰す。紅葉と一緒に絵を描いていたあのブランコのように見える。塗り潰す色は、紅葉が選んだ黄色。右上から斜め下に足された黄色は、まるで降り注ぐ光の筋のよう。あのときから、きっと今も、篠宮にとって紅葉は希望の光なのではないか。
1人ぽっちのときに紅葉が声をかけてくれ、紹介してもらった黒崎とは今もまだ友人関係が続いている。きっと紅葉も、そこでやめなければ続けられた友情がいくつもあったのではないだろうか。少なくとも篠宮は、まだ紅葉と友だちのつもりでいてくれたし、黒崎だってそうだ。
でも、今の紅葉には、ただそこにいることだけを必要としてくれる人がいる。友だちとは、本来そういうものであるはずだから。椿の家で過ごすリハビリみたいな時間の中で、そのことに少しずつ気付いてくれたら、と願う。