椿家から教わった将棋とロールキャベツ
美鳥はかつて、“一方的な暴力”にさらされていて、学校のみんなから嫌われていた。椿を除いて。
中学生だったある日、椿の実家の花屋でオレンジ色のガーベラ(1話でゆくえが「好きな人の好きな花」と言っていた)を眺めていた美鳥。例によって、頬には傷があり、椿は彼女に声をかけ、家に招き入れる。手当をする椿の母。将棋を教える椿。
それから美鳥は、椿の家に気まぐれに通うようになる。相変わらずけがが絶えることはなかったが、美鳥がけんかをしているところを「見た人はいないし、聞いた人もいない」という椿や、ロールキャベツの作り方などを教えてくれる椿の母と過ごす時間は、彼女の人生において、どれだけ安心で穏やかな時間だっただろう。
しかし、ある日突然、何も言わぬまま、美鳥は椿の前からいなくなってしまう。
そのときぶりの再会だ。椿の目に涙が浮かぶのも、想像に難くない。どれだけ心配だっただろう。きっと連絡をする術もなく、いつか帰りたい家を持てるように、と願うことしかできなかった椿。あの頃に彼女が描いたままの家を、美鳥はまた買い戻したいと言っているのだ。椿はすぐにだって家を出て行く覚悟だろうが、その話は一旦保留となる。