志木美鳥は4人に何をもたらしたのか
その後、美鳥は理想の家と夢だった学習塾を手に入れるが、北海道で母親の介護をするためにそれらを手放してしまう。ほかにもっとやりかたはなかったのだろうか。やっとの思いで作り上げた帰りたい家、自分の居場所を守るために、もっとわがままになってもよさそうなのに。やさしくて不器用な人は、いつもどこかで割を食う。
それでも美鳥は戻ってきた。しかも、いまの美鳥にはかつてたしかに心を通わせた椿(松下洸平)、夜々(今田美桜)、ゆくえ(多部未華子)、紅葉の4人がそばにいる。人から理解されづらい側だった美鳥だからこそ、その都度理解し合えた4人。その関係が時間を超えて繋がっていることがキラキラと光って見える。
だが、4人と一緒に食卓を囲む美鳥は、ずっと居心地が悪そうだ。出来上がった4人の関係性に後から入っていくことはたしかに難しい。そして当たり前だが、4人は“美鳥のためだけに”そこにいるわけではなく、5人を楽しむためにそこにいる。
一旦、北海道へ帰る美鳥。空港に見送りにきたゆくえに「2人が好き」「安心する」と美鳥は言う。片方が放った言葉を受け取るのは、そのほかのだれかではなく確実にもう片方。2人は、自分のためだけに相手がいてくれる状態だ。美鳥にとってはそれが居心地のいい状態らしい。
この物語において、志木美鳥という人物は一体なんなのだろう? 少しの生きづらさを抱えていた4人を救い、時を経て繋いでいくためのかけがえのない1人であったことは間違いない。ただ、彼女はそこに混ざり合うことを拒んだ。
彼らそれぞれにとって良き理解者で、美鳥にとってもそれぞれは良き理解者だったはずなのに。もちろん出会った時期が違うのだから、こうなることは不自然ではないのだが。2人が苦手な人も、2人が好きな人もいる、というメッセージだけを持って現れたわけではないだろう。
たった1人、搭乗口へ向かう美鳥。いつも急にいなくなってしまう彼女は、もう椿の家には戻ってこないのではないかという気持ちが湧いて、無性に寂しくなった。
(文・あまのさき)
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