なぜ「何食べ」に癒されるのか
『きのう何食べた?』は毎度何かしらのプチ事件があるが、全体的にゆったりとした時間が流れる。
最近だと『VIVANT』(TBS系)や『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)など、起伏の激しい先の読めない展開のドラマが人気を集める傾向にある。一方、「何食べ」はほのぼのとした起伏に乏しいストーリーであるにも関わらず、視聴者たちの心を鷲掴みにして離さない。ハラハラドキドキや胸キュンなど、感情をせわしなく揺さぶってくるドラマが多い中、今作には人肌のような温もりがある。
何気ない1日1日を大切に生きているシロさんとケンジからしか摂取出来ない栄養があるのだ。
休日が被った事で、お昼からビールを飲みながら2人でクレープパーティーをしたり、朝方、周りに誰もいないのをいいことに2人で相合傘をするなど、2人だけの空間でささやかな幸せをかみしめる様子を見ることは、何かとマウントの取り合いに躍起になるSNS隆盛の現代に生きる筆者にとって至福の時間だ。
『きのう何食べた?』では、男性カップルの話ではあるものの、キスシーンや三角関係などドキドキするような恋愛要素は少なく、普遍的な人と人の向き合い方が描かれる。
シロさんのために夜買い出しに行くケンジの後ろ姿に涙を浮かべたり、言葉には出さないが、ケンジの将来を考えて貯金をしているシロさんと、お互いを思いやる気持ちが強い2人から学べる事は多い。
毎週シロさんの温かい手料理が出てくるのだが、忙しくてなかなか料理が出来ない人も、観ているだけで心が満たされる。
そして時間帯も丁度いい、日々の仕事や人間関係で疲れ切った金曜の夜に優しいシロさんとケンジに癒されながら、眠りにつく。この毎週のルーティーンがずっと続けばいいのにと切実に願う。
(文・會澤奈津美)
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