“今何ができるか”に照準を合わせる南くん(八木勇征)
“死”とは怖いものだと思っていたが、南くんはなぜかいつも優しい表情をしている。それが不思議でたまらない。身体が小さくなった時より、正直今の方がずっとずっと不安だろうに。消えてしまうのは南くんなのに、自分よりちよみのことを心配しているのもそうだ。あまりにも、達観しすぎてはいないだろうか。
「ちゃんとお別れできるから幸せだ」
南くんは、生前の母親の言葉と自分の気持ちを重ねていた。もし事故であのまま死んでいたら、今のちよみとの時間は存在しなかった。これまで最悪の出来事だと思っていたことが、南くんの中で“幸せな猶予”に変わったのだ。
柔らかい表情をしていられるのも、ちよみのことを心配しているのも、すべては好きだから。自分よりちよみの方が大切だから。シンプルな言葉だが、じわじわと心に温かい感情が広がってくる。
死んでいることも、もうすぐ消えることも、すべて推測にすぎない。しかし、そう思いながら時間を過ごすのは悪いことではないと南くんは言う。その分だけ、きっと大切な思い出が増えていく。だから南くんは、心を痛めるのをやめ、“今何ができるか”考えることを選んだのだろう。
そんな南くんには、もうひとつ気がかりなことがあった。それは、父・晴幸(沢村一樹)だ。母のことで晴幸と距離を置いたまま、時間だけが過ぎ去っていた。そんな父と息子を、ちよみが繋ぐ。
録画した画面越しに謝罪と感謝を伝える南くんに、涙ぐむ晴幸。この時の沢村一樹の哀愁漂う泣きの演技には、心を揺さぶられずにはいられない。親子の時間が動き出した瞬間が、細部まで丁寧に体現されていた。