響が初めて父に胸の内を露わに
帰宅後、夏目が響の部屋に行くと、わたしは関係ないといった態度を崩さない響。夏目は、「正直、ものすごく腹が立っている」と静かに怒りを口にした。性格上、ここで響に怒るような人ではないのに……? と思ったが、「伝えにくいことを君に伝えさせる、君の上司に」という言葉が続き、胸を撫で下ろした。夏目は、どこまでも夏目だ。
ところが、安堵したのもつかの間、「君がちゃんと幸せかどうか」という夏目の言葉が引き金となり、響の怒りに火をつけてしまう。「あなたの尺度でわたしが幸せかどうか決めつけないで」「時間がかかっても、ずっと見つけようとしてるんだよ、違う生き方を」。
これまで夏目を避け、他人行儀を貫いてきた響の心の内が、初めてしっかりと露呈した瞬間だった。音楽を辞め、それでもなお音楽に関わる生き方を続ける父と、音楽を辞め、自分の人生から徹底的に音楽を排除しようと苦悩している娘。この対立は、もしかしたら埋められないのではないかという絶望を感じる。
コンサートをする場所を理不尽に奪われた晴見フィルだったが、お客さんを集められないならお客さんのいるところへ出向こう、という夏目のアイデアで、道の駅での開催を決行。休日ということもあってか、かなりの数の人が足を止めて演奏に耳を傾ける。
響も市役所の職員に言われ、晴見フィルの横暴を止めるべく現場に駆け付けるが、生き生きと音楽を奏でる夏目をはじめとする楽団の面々に目を、耳を奪われている様子だった。「いい音楽には、心が動く」という響のナレーション。音楽の魅力に、まだまだ憑りつかれているようだ。
そして、関係性に亀裂が入っていた大輝と羽野に、夏目は2人だけで演奏をする機会を設ける。本来はオケ全体を引っ張っていく役割はトランペットが担うことが多いが、2人きりでなら、大輝の演奏に羽野が合わせることができると踏んだからだ。本来トランペットが登場しないベートーヴェンの交響曲「田園」の第2楽章を、この日のために夏目がアレンジした。
夏目の読み通り、いつもよりのびやかに響く大輝のトランペットに、羽野の美しい旋律が重なる。「小川のほとりの情景」を奏でるこの部分、若々しくも優しい音がキラキラと輝くようだった。