突然の航一の謝罪再び
かくして容疑者は無罪となり、被告人は土下座をしながらお礼の言葉を口にするのだが、傍聴席で騒いでいた弟のほうはものすごい形相で裁判官たちを睨んでいた。怒りや憎しみを混ぜ込んで赤く血走った目に、入倉は怯む。これを、寅子は見逃さなかった。
涼子(桜井ユキ)が営む喫茶・ライトハウスに足を運んだ寅子、航一、入倉の3人。先客に杉田兄弟(高橋克実、田口浩正)がいた。そこで入倉は、過去を理由に敵扱いされることに対する不満を述べる。実際に自分がしてしまったことで恨まれるならいざ知らず、過去の誰かがしてしまった責任を負わされるのはたしかに理不尽だ。
でも、それでも。どこかで断ち切られなければならない。憎しみに憎しみで返しても何も生まない。嫌な行動をされて気分が悪くなるのは当たり前、としたうえで、寅子は「でも、入倉さんは踏みとどまれているじゃない」と話す。
学生時代に訪れた山で、寅子は口論の末、花岡(岩田剛典)を突き飛ばしてしまった。かつては踏みとどまることができていなかったのだ。紆余曲折あって、 踏みとどまれるようになった。まだ年若い入倉は、すでに踏みとどまれている。
だが、現実には平等はまだまだ遠い。平等の実現に向けて自分は無力だと思い悩む寅子に、杉田兄弟の兄・太郎は「平等について考えられるのは学があるか余裕がある人間だけ」と話す。これは、空襲で娘と孫を失った太郎が言うからこそ、重みのある言葉だ。同様に、多くの人が戦争によって大事なものを失い、生活が一変してしまった。戦後10年も経っていない中で、その傷が癒えることはない。
すると、これを聞いていた航一が突然謝罪の言葉を口にする。なぜか。