「総力戦研究所」所属していた航一
航一はかつて「総力戦研究所」に所属していた。総力戦研究所とは、総理直轄の組織で、30代のエリートたちが集められ、大戦に向けた模擬内閣を組閣し、机上演習を実施した。そこで航一たちは敗戦を予想したにもかかわらず、研究の結果は政府の方針とは関係がないとして戦争がはじまってしまった。
このとき、航一はどれほどの無力感を味わっただろうか。政府によって集められたのに、自分たちの出した答えは受け取ってもらえない。しかもその後、戦争は航一たちが想定した通りに推移していく。わかっていたことなのに…と、悔しくて悔しくてたまらなかったことだろう。避けられたはずの犠牲を生んでしまった、と考えたはずだ。
しかも、総力戦研究所での研究結果に関しては口外することを禁じられていた。それゆえ、だれからも罰せられることなくここまできた。その罪を航一は背負って生きている。だから空襲で家族を亡くしたことを悲しみ泣く太郎にも、戦争についての話を聞いても、「ごめんなさい」という言葉が口をついて出てしまうのだった。