星家が出来なかった”航一を甘えさせること”
勝負は中断したが、家族の注目を一身に集める寅子と優未に対し、のどかの怒りが爆発する。いつも気付けば寅子たちが中心になってしまうこと、航一が変わり、干渉し合わなかった家族の空気が変わってしまったこと…。
どちらがいいも悪いもないけれど、のどかがそれまで快適と感じるようになっていた環境が変化したことが耐えられなかった。「寅子たちといるほうが楽しそう」と、矛先は百合にも向けられる。
これに対し百合は「褒めてくれるのがうれしい」と答えた。褒められたくて家事をこなしているわけではなくても、ありがとうと言われたり、褒めてもらえることで嫌な気持ちになる人は早々いないはず。
「わたしも自分を見てほしい」という百合の言葉は、のどかの心情とも通じるものだっただろう。これまでお互いに干渉しない家庭であったならば、誰かが誰かを積極的に“見る”ことはない。
だけど、寅子と優未の登場でそれぞれがスポットを当て合うようになった。それを意識的に避けていたし、そんなの望んでいないと思っていても、のどかの中にも「見てほしい」という思いはあったのだろう。
寅子はその気持ちを掬い取り、ときどきは子ども扱いさせてほしい、と提案する。ただでさえ、子どもが子どもでいられる時間は短い。これをきっかけに、星家の空気は軟化していく。
航一の前妻が果たせなかった“航一を甘えさせられる”環境をつくり、家事を分担し、百合も仕事をしてみようかと言いはじめる。
星家と佐田家が混じり合ったというよりは、寅子という劇薬がみなを変えた格好ではあるが、以前よりも家の中が明るくなったということはいいことのはず。“家族のようなもの”が誰を置いていくこともなくひとつにまとまっていくのは、見ていて喜ばしい。