「役柄を多面的に捉えることを意識しています」
『街の上で』の出演を機に役へのアプローチに変化
―――今回、山口監督とも初タッグとなりましたが、どのような印象を受けましたか?
「監督はご自身の状況をオープンに話してくださり、最初から隠し事をせずに、腹の内を明かしてくれました。役者サイドからの提案も受け入れてくださり、“皆で一緒に映画を作っている”というムードを作ってくださいました。役者と同じ目線に立ってくださる方ですね」
―――穂志さんの提案によってセリフが変更されることはありましたか?
「犬を連れて帰宅するシーンにおける 『私が助けられそうだったのは、この子しかいなかったんだよ』というセリフは、テストの時に自然と出た言葉でした。それに対して監督は、『良かったから採用しよう』と言ってくださいました。あとは坂のシーン。『西川先生のアシスタントにならないかって言われた』と告げる莉奈に対し、修一は『そんなの上手くいくわけがないじゃん』と言います。それを聞いて莉奈は、鞄を投げて『なんで応援してくれないの?』と言いますよね。実はこのセリフは事前に『これを言いたいです』って監督に伝えたんです。監督は『そうだね!そういう気持ちだね』と、柔軟に取り入れてくださいました」
―――そのセリフはとても印象に残っていました。穂志さんのご提案だったとは…。驚くと同時にどこか納得の気持ちです。
「与えられた台詞で表現するべきなんですが…」
―――役作りをするにあたり大切にしていることはありますか?
「手の内を明かすみたいで、表立って言うのは恥ずかしいんですけど(笑)。最初に読んだ時の印象で、役のイメージを決めつけないようにしようとはしています。『この人はこうだ!』『このキャラクターはこんなことしないだろう』などと、決めつけず、役柄を多面的に捉えることを意識しています」
―――役柄を多面的に捉えるようなったのには、きっかけがあったのでしょうか?
「“多面的”という言葉は、以前出演させていただいた、『街の上で』(2021)における、若葉竜也さんのセリフの引用なんです。思い返すと、『街の上で』に携わっていた頃は、“自分の芝居はこうじゃなきゃいけない”といった固定観念にとらわれがちでした。ちょうどその頃、プライベートで演技レッスンを受ける機会があり、そこで『台詞に出ているものは、思っていることの10%か30%くらいだと思ってみて』という言葉をいただいて、ハッとしました。実際そうだと思うんですよ。例えば、生きていれば、内心は苛々していても、表面では『ありがとうございます』と笑顔を振りまかなければいけないこともある。以前は、『ありがとうございます』という台詞があったら、本当に感謝の気持ちを持ってセリフを言わなければいけないと思っていたんです。でも、『街の上で』における若葉さんのセリフや、演技レッスンでもらった言葉を自分の中に落とし込んでいくことで、役へのアプローチも変わっていきました」
―――そうなると、脚本の読み方も変わってきそうですね。
「そうですね。演じる役柄について、今まで以上に妄想するようになりました」