善なのか悪なのか
「人生100年時代」に流れる閉塞感
監督を務めた外山文治は、長編デビュー作『燦燦-さんさん-』がモントリオール世界映画祭が2014年に正式招待、2021年公開の『ソワレ』のヒットが記憶に新しい。“擬似家族”と化した高齢者専用売春クラブの姿を通して、現代社会に横たわる閉塞感や、高齢者・若者どちらにも共通する「寂しさ」を人情味たっぷりに描き出す。
「孤独を抱えた高齢者と若者たちが家族になった」というテーマの元、「茶飲友達」のビジネスを拡大させていく若者と高齢者の日常、そして、一つの事件から、売春斡旋が発覚し「ファミリー」の平穏な日々が崩れ行くまでを、臨場感たっぷりに再現させている。
妻に先立たれた茂雄(渡辺哲)が新聞の三行広告に掲載された「茶飲友達、募集」の文字を見つける場面から物語はスタートする。その広告の実態は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」の斡旋の入り口でもある。
コールガールに扮した高齢女性とクラブを運営する若者たちの仕事ぶりや、売春クラブの代表・マナが仲間に「うちらはこの街のセーフティーネット」とうそぶき、万引きに手を染める孤独な松子(磯西真喜)に「ファミリーになってくれませんか」などと勧誘していく。噂が噂を呼び、男性会員は1000人を突破するなど拡大していく、一方で後半は、複雑な家庭環境で育ったマナが風俗ビジネスを始めた“本当の理由”が語られていく。
人間には肉体的にも精神的にも欲求が存在するが、性別を問わず、「性欲」というものは衰えることの少ない欲だ。例え、体力的に性行為が不可能であっても、異性に触れたい、触れられたいといった形で、その欲を満たしていくのだ。そのために、清潔感を保ったり、オシャレに着飾ったりするという気遣いに思い至ることも多い。いくら売春を禁止したところで、老人の性欲を規制する力は法律にはない。警察もそれを取り締まることはできないはずだ。
そして最後には、よそ行き用の洋服に着替えた上で、遊ぶ気満々で、「茶飲友達」に電話するが、跡形もなく消えたことを知り、力なくうなだれる茂雄の姿で締めくくられる。
作品を通じて、この国では「人生100年時代」と喧伝されながらも、そのメンタルヘルスにまで踏み込んでいない現代社会の閉塞感や、高齢者・若者どちらにも共通する「寂しさ」が浮かび上がる作品だ。
(文・寺島武志)
【作品情報】
監督・脚本:外山文治
プロデューサー:市橋浩治、外山文治
出演:岡本玲、磯西真喜、海沼未羽、渡辺哲、瀧マキ
2022年製作/135分/PG12/日本
配給:イーチタイム
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