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前田敦子さんへのオファーは
“非現実的な考え”を持つ石原さんに背中を押された

©︎2023映画あつい胸さわぎ製作委員会

―――舞台版との一番の違いを教えてください。

まつむら「何と言っても、ター坊こと水森崇(佐藤緋美)というオリジナルキャラクターをプラスしたことですね。彼は、軽度の知的障害をもっているのですが、病気を患った千夏の気持ちを、他の人とは異なる角度から理解してあげられる存在。大人目線の気休めではなく、千夏に対して純度の高い肯定感をもったキャラクターを描きたかったんです」

―――すごく納得です。石原さんは、ター坊の母親である麻美を演じるにあたって、意識したことはありますか?

石原「麻美も原作にはないオリジナルキャラクターのため、監督とは一年以上かけてとても丁寧に人物像や役作りに関しては話し合ってきました。どんなバックグラウンドがあるのか、あの土地でどんな風に生きてきたか、境界性知能障害の方の家族の日常を取材したり、それまであまり中年の母親役など演じたことがなかった私が、そこから映像的な説得力をつけるために6キロ増量し、髪の毛を人生初の金髪にしたり。ター坊は素直で優しくてまっすぐな人間。その子の母親として存在に嘘がないようにと意識しました」

写真宮城夏子

まつむら「石原さんから『これまで母親役をあまりやったことがない』と聞いて、本作の準備に入る前に、彼女を母親役に起用した短編映画を撮ったんです。それがいい練習になった。私は以前、とある人物から『本当に言いたいことは唾吐いてでも言え!』と言われたことがありまして、それが記憶にこびり付いているのですが、彼女の芝居を見てその言葉を思い出しましたね。麻美というキャラクターはまさにそんなセリフがピッタリ人ですから」

©︎2023映画あつい胸さわぎ製作委員会

石原「脚本に関しては、私自身が活きるように麻美のキャラクターを作り込んでくださり、素の私が言いそうなセリフも散りばめられていたため、子供を思う親を自分らしく演じることができたのは幸せでした。あと、キャストのオーディションには必ず立ち会ったのですが、緋美くんは会った瞬間に『この子は私の子供だ』と思ったんです」

―――素敵なお話ですね。

まつむら「今回は、キャスティングが決まった時点で、『この役を演じるのはこの人しかいない!』という感じでした。常盤貴子さんに関しては、この映画を着想した時に真っ先に思い浮かんだ人でした。また、花内透子役をぜひ前田敦子さんに演じてもらいたい、という願望も最初からありました。とはいえ、引き受けてくれるわけがないと、ついつい現実的に考えてしまう自分がいて。そしたら、非現実的な考えを持つ石原さんから、『アタックしてみればいいじゃないですか』と、背中を押されたんです(笑)」

写真宮城夏子

―――石原さんの励ましが功を奏して、前田敦子さんの出演につながったのですね。

まつむら「前田さんが脚本を読んで、『すごく面白い!』と思ってくれたらしく、本当に嬉しかったです」

石原「絶対にいけると思っていました、前田さんのキャスティングも含めて。私は決して諦めないから。また、企画の立ち上げの段階から“日本を含むアジアで愛される作品”にしようと意識をしていましたし、勝算もありました」

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