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「日本の未来は明るいなって本気で思った」
若手キャストの活躍に舌を巻く

©︎2023映画あつい胸さわぎ製作委員会

―――拝見して感じたのは、キャラクターの存在意義もストーリーも、まったく無駄がないですよね。

まつむら「いや~、ありがとうございます!最初、映画の全体尺は2時間だったのですが、2時間版の試写を行ったところ、賛否が分かれたんですよ。そこから粘って93分に納めて、無駄を極限までそぎ落としました。進行はかなり遅れましたが、その結果、最終的には全スタッフ・キャストが納得する仕上がりになったと自負しています」

石原「スタジオでの最終調整もセリフの一語一語までこだわり、妥協せずに粘った末に、最後に全ての登場人物のポテンシャルを最大限に発揮できた“ピタッ”とまさに重なりあう瞬間があったんです。その時は、スタッフ全員の鳥肌が立ったのがわかりましたね」

まつむら「映画って作っていくうちにどんどん生まれ変わるものだと思うんです。撮って、つなぐだけでは完成ではない。1年以上かけてやっとできたのが、この作品なんです」

石原「とにかくクオリティーにこだわり、他の日本映画では味わえないこの映画の没入感は、世界でトップクラスの映画音楽家とサウンドデザイナーの演出や技術が細かく丁寧に施されているから。ぜひ映画館でしか味わえない体感を楽しんでいただきたいですね」

写真宮城夏子

―――物語の舞台である港町も、情緒溢れる素敵な街並みですよね。

まつむら「ありがとうございます。実は、当初は都内で撮る予定だったのです。しかし、コロナ禍による緊急事態宣言が発令されたことで、都内で撮影ができなくなってしまった。ロケーションをイチから考えなければいけなくなり、途方に暮れていたところ、本作に協力してくれているサーカス団「さくらサーカス」の本拠地が和歌山県であることを知り、気になって実際に足を運んでみたところ、絶好のロケーションだったんです」

石原「ここしかないと、思いましたよね!」

まつむら「原作の舞台は団地なのですが、都内では団地のある地域という条件で、撮影許可を得られる場所を探すのが困難でした。しかし、和歌山では幸いにも難なくそのような場所を見つけることができました。結果、若手俳優たちが表現する幼馴染感にも説得力が出たと思います。常盤貴子さんなんて、その街の方々と馴染んで、現地の商店で魚介類など買っては自宅に送っていましたからね(笑)。彼女いわく『土地の空気を吸うことが、一番、役作りに通じる』とのことでした」

―――お2人から見た、吉田美月喜さん、奥平大兼さん、佐藤緋美さんという若手俳優たちの印象を教えてください。

石原「宝の原石を見つけた!もちろん皆さんこれまでにもご活躍されていたのですが(笑)」

©︎2023映画あつい胸さわぎ製作委員会

まつむら「彼らは、実年齢のわりに、とても精神年齢が高くて、すでに地に足が着いている。それでいて、決して奢らず、『ここ、どうしましょう?』など、演技に関する質問も積極的にしてくれます。冗談抜きで、逆に僕の方が勉強になりましたよ(笑)。こんな若者たちがいるなら、日本の未来は明るいなって本気で思いましたね」

©︎2023映画あつい胸さわぎ製作委員会

石原「今回の撮影を通じて『若い俳優たちとは一緒に過ごす時間が大事だなと』、彼らよりもちょっぴり年上の役者として思いました。年齢問わず、みんなで作品に対する歩幅を合わせることで、この映画は成立したのだと考えています」

まつむら「僕なんて、役者陣がとても頼りがいがあったので、何もすることなかったですよ。ただ、カメラ越しに見ながら、笑っているだけで(笑)」

©︎2023映画あつい胸さわぎ製作委員会

石原「ほんと、監督がニコニコしている現場でしたよね~」

まつむら「常盤さんからは『こんなにポジティブな現場は初めてで、斬新です!』なんて言われましたし(笑)」

―――楽しそうですね~。

まつむら「いや、短い撮影時間に追われながらの撮影だったので、決して楽しい思い出ばかりではありませんよ(笑)。それはともかく、振り返って言えることは、僕は千夏ではなく、吉田美月喜を撮っていた、ということです。他の出演者にも同じことが言えるのですが、僕は、キャラクターではなく演じる人間そのものを撮りたくて映画を作っている。僕にとって『あつい胸さわぎ』は、それを改めて実感させてくれた作品ですね」

写真宮城夏子

(取材、文・ZAKKY)

【作品概要】

監督:まつむらしんご
原作:横山拓也
キャスト:吉田美月喜 常盤貴子 前田敦子 奥平大兼 三浦誠己 佐藤緋美 石原理衣
2023年1月27日(金)公開 / 上映時間:93分 / 製作:2023年(日本) / 配給:イオンエンターテイメント=S・D・P

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