心優しき映写技師を演じるのは故・渡辺裕之
“ブルース”を感じさせる役者たち
さらに俳優について言えば、映画内映画で思わぬ役柄を演じる常連組に笑わされる一方で、残念ながら本作が遺作となってしまった渡辺裕之をはじめ、吹越満、藤田朋子、浅田美代子といった演技派のベテラン勢が、はじめて城定映画に出演していることにも注目すべきだろう。すでに現在公開中の『恋のいばら』にも出演している片岡礼子や中嶋歩のように、彼らの中から今後城定組として複数の作品に出演する役者が出てくるかどうかも楽しみなところである。
また忘れてはならないのが、本作で主演に復帰した小出恵介だ。一から出発してやり直そうとする映画人という役柄を、いま彼以上にフレッシュに演じられる役者はほとんどいなかったはずだ。さまざまな経験の痕跡が刻みつけられた小出やベテラン陣の表情は、一見楽観的すぎるようにも見えるこの映画に、タイトルにもある憂いを帯びたトーンを加えることに貢献しているだろう。
振り返れば、『わたしはわたし〜OL葉子の深夜残業〜』(2018)という過去作のタイトルに端的に現れているように、多くの城定映画は、悩めるヒロインが周囲からの協力を得ながら、それでも最後には自分自身の力で本来の自己を再び発見していく過程を描き続けてきた。詳細は伏せるが、冒頭では悲哀に満ちた雰囲気を全身に漂わせていた小出=近藤が、映画の最後に辿り着く地平とその表情もまた、こうした過去のヒロインたちと重ねてみることができるかもしれない。
「映画っていいもんですよね」
一世を風靡した映画評論家の言葉が通奏低音に
最後に、『銀平町シネマブルース』のストレートな映画讃歌としての性質と絶妙にマッチするある言葉に簡単に触れて、この短評を締めくくりたい。
作中で近藤や佐藤は、もはや若い読者はほとんど知らないかもしれない、かつて金曜ロードショーの解説者として活躍した水野晴郎の名言を思わせる形で、「映画っていいもんですよね」「映画っていいじゃねえか」と口にする。特定の作品ではなく、あらゆる映画に共通する「良さ」を讃えるこの言葉は、もちろん鋭い批評性などとは無縁である。だが、それでいいのだ。映画とともに映画館が、そしてそこに集うあらゆる人間がそれぞれに持つ「良さ」をも等しく肯定しようとするこの作品の姿勢を、これ以上に明快に示す言葉は他にないからだ。
最近映画館から足が遠のいていた方も、ぜひ昔から馴染みのある映画館を訪ねて、暗闇に包まれながら本作を観てみてほしい。おそらく帰路に着くころには、しみじみとこう考えている自分に気がつくはずだ。「いやぁ、映画館って本当にいいもんですね」。
(文・冨塚亮平)
【作品情報】
監督:城定秀夫
脚本:いまおかしんじ
プロデューサー:久保和明 秋山智則
出演:小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、黒田卓也、浅田美代子、渡辺裕之
2022年製作/99分/G/日本
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
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