何度でも劇場で駈に会いたくなる

坂元裕二
坂元裕二【Getty Images】

 松村が俳優として持つ武器を総結集させて名シーンとしたのは他にもある。

 それは、駈がカンナが未来から来ていると知ったとき。今、目の前にいる人が未来の妻であることを知り、声のトーンが一気に落ち着いていく。「なんだ、身内なんだ」と安心するように駈がこれまでの喋りと姿勢を変えていく様子が、タイムトラベルするという非現実的な世界の中でリアルを生み出す。

 さらに、この先に起きる出来事を知りながら駈が選ぶ未来は変わらない。 “二度目のプロポーズ”でも、松村が元来持つ素朴な雰囲気の中に確かな決意を感じる声があり、私たちは何度でも駈に惚れ直してしまう。

 そんなわけで、最後に駈がカンナに残していた手紙で涙を流さないわけがない。カンナのタイムトラベルを経て、今も愛情深くいる夫であることが温かな声と言葉ですぐにわかる。選んだ未来に後悔はないけど、愛する人と離れてしまう寂しさ。そんな感情を具現化するような涙声にそもそも堪えられるはずがないのだ。

 シリアスなシーンばかりを書き連ねたが、映画全体としてはわりとコメディ色が強い。カンナと駈の軽妙な会話でくすりとなってしまうことは一度や二度ではないし、松たか子のコメディエンヌっぷりには改めてあっぱれだ。

 ただ、あえてもう一度言いたい。松村北斗がすごすぎると。何度でも映画館へ駈に会いに行きたくなる、そう思わせるほどの魔力がそこにはあった。

(文・まっつ)

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