表裏一体の人間を演じた萩原利久と藤堂日向
表裏一体とも言えるふたりを演じたのは、北村が『十二人の死にたい子どもたち』(2019年)で初共演を果たした際、その演技に衝撃を受けたという萩原利久。そして、北村と共演した『東京リベンジャーズ』(2021年)で映画デビューを飾り、2025年1月に公開されたばかりの映画『遺書、公開。』にも出演している藤堂日向だ。
撮影期間は3日。しかし、限られた時間のなかで魅せた生身の演技は、映像でも色濃く滲んでいた。
萩原が演じる彼方の日常は、映画では淡々と描かれている。セリフもまばらなため、萩原は間の取り方や声にならない表情で、観客に自身の心情を訴えなければならない役柄だった。
困惑、安堵、怒り、絶望……。感情は目まぐるしく変動しているのに、萩原の表情は本人さえも意図しているのか定かではないくらい、心の動きとリンクするように自然と切り替わっていく。
物語が進んでいくにつれて、時間の歪みも露わになる。早朝から彼方がビールを飲んでいたり、ふたりがトンネルを抜けると朝から夜に変わっていたり。平日か休日か、朝か夜かの感覚も薄れるほど疲弊していく彼方の姿を、萩原はありのままに演じていた。
藤堂が演じる星野は、彼方に比べるとセリフも動きも多彩。前半は彼方と軽い問答を交わすなかで、ふたりの気の置けない関係性が伝わってくる。
しかし、居酒屋であっけらかんと「明日、何の日かわかる?」と語りかける星野の表情には、明るい語り口と反した陰が見え隠れしており、藤堂の演技によってくっきりとした陰影が浮かびあがる。
さらに、屋上のシーンでは感情を爆発させて、全身で星野という人間を体現する。「諦め」の言葉だけでは形容したくない想いが、5分以上にわたる彼の独白には込められていた。