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想像膨らむラストは? 映画『ちひろさん』有村架純が元風俗嬢の弁当屋を力演。忖度なしガチレビュー【あらすじ 考察 解説】

text by 編集部

安田弘之の同名コミックを実写映画にした『ちひろさん』が2月23日より公開される。元風俗嬢の主人公を国民的女優の有村架純が演じ、『愛がなんだ』の今泉力哉が監督を務めた本作は、劇場公開と同時にNetflixで全世界配信予定だ。女優として確立した彼女が新たな挑戦をした本作のレビューを紹介する。

人々を癒す元風俗嬢のお弁当屋さんを有村架純が熱演

©2023 Asmik AceInc©安田弘之秋田書店2014

本作は、雑誌「Eleganceイブ」で2013年から2018年にわたり連載された安田弘之による漫画『ちひろさん』を原作としている。

元風俗嬢の主人公・ちひろが、とある海辺の町の小さな弁当屋さん「のこのこ弁当」で働きながら、心に傷や悩みを抱えて上手く生きることができない人々と交流し、彼女の言葉や行動がそれぞれの生き方に影響を与えていく。

心のままに生きることの大切さ、そして孤独と向き合うことの尊さを描き、心が洗われる、まさに現代に生きる人々の道しるべとなるようなヒューマンドラマだ。

©2023 Asmik AceInc©安田弘之秋田書店2014

主人公のちひろ役は、国民的女優として、2月13日には30歳となった有村架純。『映画 ビリギャル』(2015年)や、『花束みたいな恋をした』(2021年)などに主演し、アイドル的人気を博した彼女だが、『月の満ち欠け』(2022年)では禁断の恋に落ちる役、『前科者』(2022年)では本気で怒りの感情を露にする保護司の役を演じ、着実に演技の幅を広げている。また、本作では濡れ場にも挑戦している。

ちひろは、開けっ広げで、口も悪く、常識にとらわれない性格だ。しかし、一方で、シングルマザーの下で寂しく生きる小学生や親の言いなりで言いたいことも言えない女子高生、無口なホームレスのおじさんなど、社会的弱者や苦しむ者にとことんに寄り添う優しさと、強さを持っている。

©2023 Asmik AceInc©安田弘之秋田書店2014

作品の舞台は、“海辺の田舎町”というだけで、具体的な地名は明示されていない。また、ちひろが風俗店の面接で提出した履歴書には「静岡県焼津市」と記載があるものの、彼女がどの街で風俗嬢をしていたのかは明らかではない。とはいえ、ちひろ自身、風俗嬢であった過去を隠すことはなく、町では浮いた存在で、ちょっとした有名人になってしまっているあたり、小さいコミュニティーが形成されていることは分かる。その小さなコミュニティーの中でも、人の数だけ悩みがあり、それぞれ人生にまつわる問題を抱えており、ちひろは、そんな人を見ると放ってはいられない。

©2023 Asmik AceInc©安田弘之秋田書店2014

お節介なくらい世話を焼き、悩める人々を孤独や苦しみから解き放つ彼女は町の人気者だ。時には、それが原因で因縁をつけられることも…。それでも本人は気にも留めずにマイペースに生き続ける。しかし実はちひろにも不幸な過去があり、人一倍、傷付いた人生を歩んできたことが、暗示される。様々な背景を持った人たちとの交流により、彼女自身も少しずつ変化していく。

血は繋がらなくとも、心で繋がっている風俗店時代の店長でもある“父”と、「のこのこ弁当」の主人の妻である“母”との出会いと交流は繊細なタッチで描かれる。また、本編では映し出されないちひろの不幸な過去、そこから立ち上がっていく姿は、観る者の心を打つ。

©2023 Asmik AceInc©安田弘之秋田書店2014

「情けは人の為ならず」というが、ちひろは、それを地で行くような生き方をする女性だ。それでいて、人生の“陰”の部分を感じさせないおおらかさも持ち合わせている。この二面性を自然に演じられる部分に、有村架純の女優としての力量を感じる。

結末には触れないでおくが、彼女はこれからも、悩める人の助けとなり、苦しみを癒し、そして、自分の人生も豊かにしていくに違いない…。そんな想像が膨らむエンディングで、物語は締めくくられる。是非、劇場や配信で体感していただきたい。

(文・寺島武志)

【作品情報】
『ちひろさん』

©2023 Asmik AceInc©安田弘之秋田書店2014

出演:有村架純、豊嶋花、嶋田鉄太、Van、若葉竜也、佐久間由衣、長澤樹、市川実和子
鈴木慶一、根岸季衣、平田満
リリー・フランキー、風吹ジュン
原作:安田弘之「ちひろさん」(秋田書店「秋田レディース・コミック・デラックス」刊)
監督:今泉力哉 脚本:澤井香織 今泉力哉
音楽:岸田繁 主題歌:くるり「愛の太陽」(VICTOR ENTERTAINMENT / SPEEDSTAR RECORDS)
©2023 Asmik Ace.Inc.©安田弘之(秋田書店)2014

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