命の繋がりを実感する瞬間
②寝たきりの妹
映画後半、哲代さんは姪と一緒に、施設にいる妹・桃代さんに会いに行く。かつてはずっと一緒に遊んでいた妹だが、今はコミュニケーションをとることすらできない。神戸まで会いに行っても、与えられた面会時間はたったの10分。しかも、コロナ対策でアクリル板越しでの面会だ。
「桃ちゃん、桃ちゃん」と、車椅子の上で目を閉じる桃代さんの名前を呼ぶ哲代さん。その気持ちが届いたのか、無反応に見えた桃代さんの目にどんどん涙が溢れていく。長生きをしたからこそ、出会える景色もあれば、長生きをしたからこそ、立ち会わなければならない場面がある。「歳を重ねる」ことについて考えさせられるシーンだった。
面会のあとのシーンで、桃代さんのひ孫さんたちに車椅子を押される哲代さんの姿がある。我が子を授かることが叶わなかった哲代さんだが、大好きな妹のひ孫と触れ合うことができる。別れ際、ひ孫と手の大きさを比べる哲代さんはとても嬉しそうだった。
③同窓会での戦争の記憶
劇中、哲代さんが同窓会に恩師として招待されるシーンがある。初めて担任をした教え子の同窓会で、当時の1年生は今や米寿。すでに廃校になり、地域の施設となった小学校の教室で教え子たちと会食をする。当時の思い出話に花を咲かせる中、話は1941年の開戦の日の話題に移っていく。
「今みたいにはっきり思うたことを言われもせんし。出されもせんし」と、戦時下の教科書を見ながら当時の複雑な胸の内を明かす哲代さん。同じ広島が舞台の映画『この世界の片隅に』(2016)のように、戦争はこんな山奥の小学校にも影を落としていたのだ。