抑制された表現が光る奥平大兼の“静かな演技”

中川駿監督 写真:武馬怜子
中川駿監督 写真:武馬怜子

―――奥平大兼さん演じる主人公・京君は、静かで抑制された演技を通して、その心の揺れ動きを見事に体現されていました。こうした静かな表現について、中川監督からはどのような演出やディスカッションがあったのでしょうか?
  
「京くんというキャラクターは、頭の中でネガティブなことをこじらせて、あれこれ思い悩んでしまうような、独特な思考回路を持っているタイプで、なかなか理解が難しい存在でした。なので、奥平くんとは、キャラクターについての話し合いをしっかり行いました。『ここではこういう思考を経たからこそ、こういう行動や選択をしているんだよ』といった、脳内の思考プロセスまで共有するようにしていました。

ただ、『こう演じてください』など、具体的なアウトプットの仕方まで細かく指示することはほとんどなかったです。彼がキャラクターの思考を理解した上で、奥平くんなりの表現で演じてくれた。その表現が良かったのであれば、それはまさに奥平くんの実力であり、彼自身の功績だと思っています」

 
―――奥平さんの俳優としての魅力を教えてください。 
  
「すごく誠実な方だという印象が強いです。芝居にも非常に真摯で、分からないことはきちんと『分からない』と伝えてくれますし、納得できるまでしっかり話し合える姿勢が本当に素晴らしいと思います。

私自身まだ若輩者ではありますが、奥平くんから見れば年長者です。若い俳優さんの中には、分からないまま何となく“分かったふり”をして演じてしまう人もいますが、奥平くんは違いました。

分からないことがあれば素直に共有してくれるし、『こういうアプローチなら理解できるかも』と、自分なりの方法を提案してくれるんです。そうやって一緒に、パートナーとして信頼関係を築きながら作品を作っていけたことは、とても得がたい経験でした」

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