佐野晶哉が作った“5人の空気”

中川駿監督 写真:武馬怜子
中川駿監督 写真:武馬怜子

―――個人的に、ヅカ役の佐野晶哉さんが、とても役に合っていると感じました。佐野さんのキャスティングについてもお聞きできますか? 
  
「佐野くんをヅカ役に決めた1番のきっかけは、彼の“笑顔”です。歯を見せてニカッする笑顔がすごく印象的なんです。ただ、自分の“楽しい”という感情を消化するだけなら、あそこまで笑う必要はないと思うんです。

でも彼の笑顔は、話している相手やその場にいる周囲の人たちまで明るくしてくれる。表情ひとつにも、相手を思いやる気配りや優しさがにじんでいる気がして…。もちろん、これは私の勝手な深読みかもしれませんが、彼の中には常に“他者への配慮”があるように感じたんです。それがまさに、ヅカというキャラクターそのものだと思ったので、迷いなく『ぜひ佐野くんで』とお願いしました」 

 
―――各章ごとに異なる登場人物の視点から物語が描かれている5章構成の本作は、章ごとに数カ月ほど時間が経過しているのも印象的で、まるで5人が過ごす1年間に寄り添っているかのような感覚を味わえました。章が進むにつれて5人の距離が少しずつ縮まり、気づけば一緒にいることが“当たり前”のように描かれていましたが、こうした関係性の変化を自然に表現するにあたり、章ごとにどのような演出や工夫をされたのか、お聞きできますか?
  
「1番の功労者は佐野くんです。彼は“心の扉をぶち開ける”タイプなんですよ(笑)。実際、クランクイン直後から新潟で地方ロケだったんですが、初日から奥平くんと一緒にご飯に行っていたらしくて。奥平くんにとっても、初対面の共演者とそんなに早く打ち解けるのは珍しいことだったらしいです(笑)。

でも佐野くんって、ズカズカと人の懐に入ってくるのに全然嫌味がなくて、とても自然で爽やか。彼が中心となって、5人の関係性を築き上げてくれたことで、現場の空気も一気に和やかになっていきました。

今回はなるべく物語の流れに沿って撮影を進めていったので、もし終盤に向かうにつれて、登場人物たちがどんどん仲良くなっていくように見えたとしたら、それは間違いなく佐野くんの人柄と存在感のおかげです」

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