ホーム » 投稿 » 日本映画 » レビュー » 映画「寝ても覚めても」東出昌大&唐田えりかの評価は…。濱口竜介監督が見せる演出の手腕<あらすじ 考察 レビュー> » Page 3

キャラクターの内面を音響描写で表現する演出の魔法

『ドライブ・マイ・カー』で第94回アカデミー賞の外国語映画賞を獲得し、一躍日本を代表する監督となった、濱口竜介の商業デビュー作である。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、無冠に終わったものの、批評家から高い評価を得た。

性格は正反対ながら、容姿のよく似た2人の男・麦と亮平を東出昌大が演じ、唐田えりか扮するヒロイン・朝子は両者の間で引き裂かれる。本作以前に恋愛会話劇の佳作『PASSION』(2008)や、5時間超えの傑作長編『ハッピーアワー』を手掛けている濱口竜介の演出は堂々たるものだ。

朝子と麦が最初に出会うシーンでは、背景で子供が爆竹遊びをしており、印象に残るのは、けたたましい破裂音である。他にも、ナイトクラブでの喧嘩やバイク事故など、朝子と麦が絡む場面は暴力や死を暗示する描写が印象的だ。

一方の亮平は、麦とは異なり穏やかな性格の持ち主。亮平と朝子が関わる場面は、静かなカフェや閑静な川辺の住宅地などを舞台とし、落ち着いたトーンに保たれている。ロケーションと一体となったキャラクター描写によって、麦と亮平、それぞれがまとう空気感をごく自然に描き分けているのだ。

東出が身一つで演じる麦と亮平がレストランで対面するシーンでは、片方の映像を交互に示すのではなく、両者が同じフレームに収まるトリッキーなカットがあり、思わずギョッとする。麦の出現は、朝子と亮平が紡いできた関係を一瞬にして打ち壊し、秩序立った世界をカオスに変えてしまう。

濱口竜介は、師匠筋にあたる黒沢清を彷彿とさせるホラー調の演出を随所で活用することによって、単なる恋愛映画の枠に収まらない、ミステリアスな雰囲気を作品にまとわせることに成功している。

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