寝ても覚めても 映像の魅力
撮影を手掛けたのは、濱口竜介と同じ東京芸術大学大学院出身の佐々木靖之。端正でシャープなショットに定評があり、その映像センスは本作でも遺憾なく発揮されている。手持ちカメラを用いたカットはほとんどなく、安定した構図が大半を占めてはいるものの、クローズアップとロングショットを巧みに織り交ぜた、メリハリのある画面構成によって緊張は途切れない。
一方で、朝子が自動車に乗った麦を追いかけるカットや、逃げ行く亮平を追っていくカットでは、大胆な移動撮影が見られ、シーンに切迫感をもたらしている。とはいえ、基本的にはどのカットも登場人物の魅力を引き立たせるために存在しており、突出して美しい映像が繰り広げられるわけではない。その点、本作の映像表現は慎ましいが、それは作品のコンセプトに沿った慎ましさなのだ。