台風クラブ 脚本の魅力
本作をプロデュースしたのは、長谷川和彦と相米慎二を筆頭にした9人の映画監督によって立ち上げられた映画製作会社「ディレクターズ・カンパニー」(以下、ディレカン)。脚本はディレカンのシナリオ募集コンクール準入選作であり、作者の加藤祐司はプロのシナリオライターではなく、本作以外には作品を残していない。ディレカン所属の映画監督のほとんどは、本作の脚本を「意味不明」だと断定。映画化に名乗りを挙げたのは、相米慎二と黒沢清のみであったというエピソードはつとに有名だ。
平凡な少年少女が、台風の襲来をきっかけに鬱屈した感情を解放させていく、という筋書きであったならば、登場人物に共感を寄せることができそうなものだが、本作のシナリオはそうはなっていない。少女たちは序盤から同級生をプールに沈め、野球部の少年・健(紅林茂)は理科の授業中に美智子(大西結花)の背中に硫酸を浴びせかけるなど、台風上陸前から常軌を逸した行動を見せる。
台風上陸後、健が美智子に襲い掛かるシーンは不気味な迫力に満ちているが、場面が変わると、さっきまでの修羅場はどこへやら、2人は他の生徒も交えて仲良く行動を共にする。このように本作の物語は登場人物の心理の流れが把握できず、観る者は困惑を余儀なくされる。
一方、心理的には到底納得できない、飛躍に富んだ展開が魅力であるのも事実。かつて、相米慎二と黒沢清を除いたディレカン所属の映画作家が否を突きつけたことからわかる通り、賛否が極端に分かれるタイプの脚本だと言えるだろう。