台風クラブ 配役の魅力
岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』(2001)が、少年少女のキャラクターを引き立たせるために、大人キャストを希薄な存在に仕立て上げたのとは異なり、本作では脇を固める大人たちにも強烈な個性とリアリティが与えられている。
甲斐性のないクラスの担任・梅宮を演じる三浦友和は、それまで実直な好青年ばかり演じていたが、本作で脱皮。下着姿で酔い潰れ、婚約者に足を引っ掛けて絡みつく動きは、無節操な梅宮のキャラクターを巧みに表現している。
一方、梅宮はステレオタイプなダメな大人として描かれているわけではなく、生徒たちのSOSを聞きつけ、プールで溺れた男子生徒の救助に向かうなど、教師としての矜持はあり、それなりの人望も持ち合わせている。結果、梅宮のキャラクターは「こんな人、確かにいる」というリアリティを獲得。子供たちと衝突する大人側のキャラクターがしっかり描かれているため、世代間対立のドラマに奥深さをもたらしているのだ。
一方の生徒キャストはほとんどが演技未経験であり、セリフの言い回しには生硬さがある。また、ヒロインの理恵(工藤夕貴)が教室の窓に首を挟む身振りなど、普通ではあり得ない、エキセントリックな動きも目立つ。
とはいえ、演出、脚本の項目でも触れたとおり、本作の魅力はロジックに回収されない飛躍したアクションと、そこから垣間見える、役者のリアルな運動の輝きにある。雨風が吹き荒ぶ中、歌いながら夜の街を駆け回る理恵=工藤夕貴の疾走と歌声は、一度観たら忘れられないほどのインパクトがあり、それは他の生徒陣の演技を超えたアクションにも当てはまるのだ。