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ガンの転移によって迫られる決断
「見えない、隠れた障がい」に対する理解を深める

C大宮映像製作所

本人の希望で、彼女の“ありのまま”を記録していく本作。夫である翔太さんも、自然体で彼女と接する優しい青年だ。彼女の看護師の先輩や、義理の姉、障がいを持つ人に対しサポートを行っている施設「ナノ」のスタッフといった人々によるサポートによって、彼女は、自分が置かれた境遇の中で、可能な限りの支援を受けつつ、日々、気付いたことを言葉に紡いでいく。そして、「やりたいことリスト」を作り、結婚披露宴や富士登山を実現させる。周囲も、万全のコロナ対策を施しつつ、“囲む会”を催す。

それでも彼女のガンは進行していき、リンパや脳にまで転移していく。そして、右手が思うように動かせないまでに悪化する。夫の翔太さんと「どこで死を迎えたいか」について話し合いたいが、それをすることで、死を受け入れることになってしまうのではないかと葛藤するゆずなさんの姿に胸を痛む。

「ナノ」には、ケガや病気により脳に損傷を負ったことによる記憶障がい、注意障がい、遂行機能障がい、社会的行動障がいなどを抱えた患者も多く、これらの症状により、日常生活または社会生活に制約がある状態が高次脳機能障がいであり、脳卒中(脳梗塞・くも膜下出血・脳出血)や感染症、頭部外傷事故、さらに最近では、「新型コロナ後遺症」によって、脳や神経に障がいが残ることもある。

こうした、一見わかりにくい「見えない、隠れた障がい」に対する一般の理解は進んでいるとはいえず、それどころか本人の自覚がない場合もある。こうした場合、行政から十分な支援が受けることも難しい。

そんな現状にかかわらず、「ナノ」の理事長として“生きにくさ”を抱える人へのサポートを続ける谷口眞知子さんも、「ナノ」の利用者も、法整備の現状に対する不満を吐露することはない。彼、彼女らはただただ今できることを全力でこなしている。

ゆずなさんも、「AYA世代」に対する公的サポートの少なさを嘆いたり、不平不満を述べたりはしない。「ナノ」の利用者とのつながりによって、現状を受け入れ、その中で出来ることを探す姿は健気だ。そんな彼女の姿は、観客である我々に共通の問題意識を持つことを静かに促す。

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