常識が通用しない構成に脱帽
“イケメン俳優”の才能が露わになった一作
斎藤工『blank13』
監督:齊藤工
脚本:西条みつとし
原作:はしもとこうじ
出演:高橋一生、松岡茉優、斎藤工、神野三鈴、リリー・フランキー
【作品内容】
借金に追われ、13年前に失踪した父(リリー・フランキー)。大人になったコウジ(高橋一生)は、兄のヨシユキ(斎藤工)に、父が余命3ヶ月であることを聞かされる。お見舞いに行くも、13年ぶりに再開した父は、相変わらず借金に追われていた。
やがて父が亡くなり葬儀を執り行うが、参列者が父との思い出話を語るうちに、自分が知らない父の姿を知ることになる。
【注目ポイント】
俳優としての斎藤工は、“大人の色気”という言葉を具現化したようなルックスと声とお芝居で、老若男女問わずに人気のある俳優である。しかし、映画監督としての彼はまた違った一面を見せてくれる。
映画の前半は、父の借金のせいで苦しむ家族の描写がリアルで、思わず胸が痛くなってしまう。13年ぶりにコウジと父が再開するシーンでは、会わない時間が長すぎた父と息子の気まずい空気が見事に表現されている。居心地が悪い思いをする一方、離れるには名残惜しい…。そんな微妙な感情が繊細な演出で描出されているのだ。
小さい頃に父に遊んでもらった記憶は、自分が大人になっても宝物のような思い出であることは間違いない。そんな忘れてしまいそうだけど、“心の中に確かにあるモノ”を繊細に描いたシーンの演出は、いかにも堂に入っている。
父が亡くなり葬儀のシーンになると、佐藤二朗をはじめとした個性豊かな役者勢が暴れ出し、前半と後半でガラッと雰囲気が変わってしまう、なんとも不思議な展開が魅力的である。
借金まみれでどうしようもなかった父のお葬式。張り詰めた空気の中、ぶっ飛んだキャラクターの弔問客から抱腹絶倒のエピソードトークぶっこまれる。不謹慎な笑いを大胆に取り込んだ、齊藤監督独自のユーモアセンスが滲み出た名シーンだ。
また、お葬式のシーンに出演している役者たちが、ネジが外れているのにもかかわらず、「本当に存在しているのではないか」と思うほどナチュラルである、という点も素晴らしい。怪優・佐藤二朗の無双ぶりもさることながら、名前も知らない役者たちの演技も見応えたっぷり。俳優出身の巨匠であるクリント・イーストウッドやベン・アフレックの仕事ぶりを思わせる、役者を輝かせる斎藤工の演出は、今後の映画作家としての活躍を期待させるのに十分だ。
リアルと虚構を絶妙なバランスで共存させるカオスな描写には、齊藤工の人間性、監督としての才能がギュッと凝縮されている。役者の面白さと、齊藤工という人間の魅力がたっぷり詰まった一作だ。
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