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セカイ系と東日本大震災〜演出の魅力

新海誠監督
新海誠監督Getty Images

本作は、『天気の子』『すずめの戸締まり』で知られるアニメーション監督・新海誠の作品で、主演の瀧役を神木隆之介、三葉役を上白石萌音が演じている。2016年の公開当時は興行収入250億円を記録し、邦画では歴代5位にランクインするなど、大きな話題を呼んだ。

さて、本作は、話の大筋は平安時代の『とりかえばや物語』や大林宣彦の『転校生』(1982年)にみられる「男女の入れ替わり」を忠実に引き継いでいる。しかし本作では、この古典的なモチーフを起点に新海独自の設定により、オリジナリティあふれる作品に昇華している。

一つは「セカイ系」だろう。セカイ系とは、若い男女の恋愛関係などの「小さな物語」が世界の終末や存亡といった「大きな物語」を左右する物語形式のことで、本作では、この物語形式を踏襲した上で、パラレルワールドなどのSF的な設定を盛り込むことにより、作品としての質をさらに高めている。

なお、従来のセカイ系の登場人物は、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年〜96年)に登場する碇シンジのように、「ウジウジしたビビり」として描かれることが多かった。一方、本作の主人公・瀧は、積極的に状況を変えバッドエンドをハッピーエンドにしようとするヒロイックな人物として描かれており、ここも多くの観客の共感を呼んだ点だと言えるだろう。

また、本作の制作のきっかけとなった東日本大震災にも触れておきたい。新海は2011年7月、津波の甚大な被害を受けた宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区を訪問。「ここは自分の町だったかもしれない。自分が閖上のあなただったら」という思いから、本作を制作したという。

確かに、本作はあくまでファンタジーであり、「震災映画」として見ると、当事者性を含め、災害の実態が描けているとは言い難い。しかし、本作に新海の震災に対する率直な思いが反映されているのは確かである。

また、本作の特徴として挙げられるのは、現実に存在する土地をリアルに再現することで、瀧と三葉が織りなす物語の骨格をなしているという点だろう。劇中で登場した土地は「聖地」と呼ばれ、ファンたちが「巡礼」に訪れる観光スポットになっている。

一例を挙げると、三葉が住む糸守町は架空の土地だが、その景観は岐阜県・飛騨古川駅、飛騨市図書館など、実在のスポットをモデルにしており、現地に足を運ぶと劇中に登場した風景と出会うことができる。他にも、オープニングに登場する新宿警察署裏の信号付近の風景やラストシーンに登場する四谷の須賀神社なども「聖地」として有名だ。

本作に魅了された者は、スクリーンの中から現実世界へと目を向け、ロケ地となった風景にそれまでとは異なる美を見る。観る者の身体を虚構から現実へ向けさせるという点で、閉塞的な構造を持つ他の「セカイ系」アニメと一線を画す、エポックメイキングな作品だと言っていいだろう。

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