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美少女ゲームと神話的想像力〜脚本の魅力

2011年ニューヨーク・コミコンに招待された際の新海誠
2011年ニューヨークコミコンに招待された際の新海誠Getty Images

本作の脚本には、セカイ系以外にもサブカルチャー的な想像力が盛り込まれている。それが「美少女ゲーム」である。美少女ゲームとは、プレイヤーがアニメ調の美少女キャラクターとの恋愛を楽しむゲームのこと。

美少女キャラクターごとに複数に物語が分岐していくのが特徴で、『魔法少女まどか マギカ』(☆2011年)の虚淵玄や小説家の西尾維新をはじめ、ゼロ年代以降の作家の創造力の源泉となってきた。そして何を隠そう新海自身も、アダルトゲームブランド「minori」のオープニングムービーなどを手がけてきた美少女ゲームクリエイターであった。

あらすじからも分かる通り、本作は瀧が三葉、三葉が瀧という別人を「アバター」になり代わり、過去の世界線を変えるべく奮闘する作品である。ここには、自らプレイヤーに成り替わり、複数に分岐した選択肢から一つを選択する美少女ゲームの影響が垣間見える。

なお、作中では、瀧が生きている時間と三葉が生きている時間は3年ほどズレており、通常の「入れ替わりもの」とは一線を画した複雑な時系列を有する。しかし、新海は複雑な物語構造を勢いのあるアップテンポの編集で分かりやすく表現。特に前半は男女の入れ替わりをスマートフォンのアプリなどを通じてコミカルに見せており、観客を決して飽きさせない(物語の経済性・効率性を重視するあまり、全体的に「ゴリ押し感」が漂っているのも確かだが)。

また、本作では、こういった複雑な世界観を理解する助けとして、神話的なモチーフがあちこちに散りばめられている。例えば「口噛み酒」は、酒を醸(かも)す時間が個人の生を超えた悠久な時間へのアクセスを象徴するとともに、「組紐」は瀧と三葉という空間的・時間的に隔たった人物同士を接続する。

そして一葉が語る「結び」は、個人の生と個人の性を超えた悠久の時間を結び合わせる概念である。美少女ゲームと神話的想像力…。この2つの要素が、本作の世界観を形作っているのである。

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