細やかなディテールから浮かび上がる世界観〜映像の魅力
本作の映像の特徴としては、他の新海作品でも見られる写実的かつ緻密な風景描写が挙げられるだろう。新宿をはじめとした東京の描写や糸森の雄大な自然、そして彗星が落ちた後の被災地の状況は、実写以上に写実的でありながらどこかファンタジックでもある。
従来のアニメーションでは、キャラクターの描写が中心に据えられ、周囲の風景はあくまでキャラクターの目を通して知覚された「添え物」であるという印象が強かった。一方、新海は『ほしのこえ』(2002年)や『秒速5センチメートル』(2004年)において風景の中にキャラクターを据えることで、登場人物を取り巻く世界そのものの描写に成功した。
なお、本作の作画監督を務めたのは『千と千尋の神隠し』や『パプリカ』の作画監督としても知られる安藤雅司。かつてはスタジオジブリにも在籍していた彼は、本作でそれまでの新海作品には見られない情感あふれるキャラクター描写を行っており、風景・キャラクターともにリアリティあふれる描写が見どころになっている。
また本作では、10カットほど「引き戸を開けるシーン」が登場する。それも、引き戸のレール上から地面すれすれのローアングルで扉を捉えた、いささか奇妙なカットである。このカットの理由ははっきりと明示されていないものの、1つのカットに分断された2つの空間を収めることで「境界」を描いていると考えるのが自然だろう。なお、この引き戸のカットは、新海が敬愛する庵野秀明の作品『彼氏彼女の事情』(1998年〜99年)にも頻出するカットであることを付け加えておこう。