CURE 演出の魅力
監督の黒沢清は1983年にピンク映画『神田川淫乱戦争』でデビュー。豊富な映画史的知識を活かしたエッジの効いた作風で鳴らしたものの、主な支持層は一部の映画好きに限られていた。そんなカルト作家・黒沢清が世界レベルの作家として、脚光を浴びるきっかけとなったのが本作である。
体裁はホラー映画だが、幽霊が登場するわけでも、モンスターが襲いかかってくるわけでもない。細部まで工夫が行き届いた卓抜な演出によって描かれるのは、何の変哲もない青年が、催眠術によって平凡な市民を殺人鬼に変えてしまうプロセスである。
悪の伝道師・間宮(萩原聖人)は、コップに注がれた水やライターの火など、日常的なエレメントを使って、人を狂気に陥らせる。また、殺人の様子は客観的な視点によってごくあっさりと描写され、観る者に「たまたま殺人現場に居合わせてしまった」といったリアルな感触を与える。
こうした写実的な暴力描写において、当世では黒沢清の右に出る者はいない。間宮の能力を継承した高部(役所広司)が、短い会話でファミレスのウェイトレスを洗脳してしまう描写もまた、客観視線の映像によって示され、日常に侵食する狂気を見事に表現している。
韓国の名匠・ポン・ジュノは本作から受けた影響を公言して憚らない。後世の映画表現に与えたインパクトの大きさも、評価されるべきポイントだろう。