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CURE 脚本の魅力

往々にしてホラー映画は、観客を怖がらせるために、登場人物の内面を安易に単純化する傾向がある。本作の脚本が素晴らしいのは、登場人物が単純に描かれておらず、それぞれ悩みや葛藤を抱えており、それが恐怖描写と密接に関係している点である。

例を挙げると、間宮の教唆によって見知らぬ男性を殺害してしまう女医(洞口依子)は、男性優位な医療業界に内心では不満を抱えている。間宮は、彼女が抱えている男性一般へのコンプレックスを催眠術によって「解放」することで、殺人行為へと走らせるのだ。

タイトルの「CURE」(癒し、治療)とは、上記の「解放」のことを指し示している。主人公の高部もまた、心の奥底に不満を抱え込んでいる。彼の妻は精神病を患っており、内心では彼女のことを重荷に感じているのだ。

とはいえ、「悪意こそが人間本来の感情である」といった性悪説が声高に叫ばれているわけではない。どんな人でもコンプレックスは必ずあり、良識と悪意のバランスを上手く保って生きている。脚本を手がけた黒沢清は、間宮という一見平凡な「怪物」を通して、良識と悪意のバランスに裂け目を入れ、観る者を不安定な心理状態に導くのだ。

「あんた誰だ?」と連呼し、相手にばかり話をさせる間宮のセリフは驚くべき完成度を誇る。また、精神を病んだ高部の妻が語る不可解なおとぎ話から物語をはじめるアイデアもひねりが効いている。

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