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「こんな顔をしていたのか」
初となるキスシーンの撮影秘話

写真宮城夏子

―――阿久津さんとのキスシーンは、さりげなく演出されているからこそ、かけがえのない瞬間に立ち会っている気持ちになる、素晴らしい場面だと思いました。この場面にまつわる、現場でのエピソードを教えてください。

「女優さんがバラエティー番組などで『キスシーンの前は食べ物に気を付ける』とか、『入念に歯磨きをする』などと仰っていたのを観ていたので、私も気を付けるようにしました。そして、本番ではとりあえず息を止めました(笑)。

カットがかかった後、ブワーっと息を吐いて…。緊張しすぎて自分がどんな表情をしているのかまったく見当もつかなかったので、映像を観て『こんな顔をしていたのか』と驚きました」

―――気恥ずかしさと喜びが入り混じった不思議な表情をされていて、引き込まれました。本作ではモノローグも印象的ですが、こちらの声も下尾さんが担当されているのでしょうか?

「そうです。先ほど仰ったように、ペコパンが登場するシーンは、本を読み進める亜美のイマジネーションを通して語られるという側面があるのだと思います」

―――モノローグを録る際に意識されたことはありますか? また、監督からの演出で印象的だったものはありますか?

「監督からは『言葉に感情を乗せずに、まっさらな紙の状態でいてほしい』という演出を受けました。また、『普段読書をする際に、本に書かれた言葉を小声でスラスラと呟いている感じ』と言われて、それを再現するのに苦労しましたね」

―――モノローグを聞いていて、もしかしたら他の人の声かな?と勘違いするほど、声のトーンと言いますか、モードが違っていました。

「モノローグを読み上げる私の声に感情が入りすぎると、観客が物語に没入するのを妨げるリスクがあると思うんです。観る方の想像力を邪魔しないように、良い塩梅を探るのが難しかったです。でも、すごく勉強になりました」

―――完成した作品をご覧になってどんな印象を持ちましたか?

「小っ恥ずかしかったです(笑)。映像を一切見ずにモノローグを録ったので、完成した作品を観た時は、『すごい、ちゃんと収まっている』と感動しましたね」

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