坂元裕二と坂本龍一
“二人のサカモト“の素晴らしい仕事に注目
本作最大の注目ポイントは、なんといっても坂元裕二の脚本だ。これまで数多のテレビドラマでその才能を遺憾なく発揮してきた坂元の筆は、私淑する是枝との競演とのこともあり、抜群に冴えわたっている。特に、湊の水筒の中に詰められた砂や校舎中に響く不気味なトランペットの音など、ささやかなモチーフの意味がオセロの駒のように転換していく展開は、流石といっていいだろう。
監督である是枝も、自身の作家性を極力保った形で坂元の脚本を映像化している。とりわけ、本作の肝である台風のシーンは圧巻の一言。また、湊と依里の2人が「秘密基地」ではしゃぐシーンも、子どもの演出を得意とする是枝調が炸裂し、ロケ地のフォトジェニックな美しさも相まって観客の胸を打つこと請け合いだろう。
子どもといえば、湊役の黒川想矢と、星川依里役の柊木陽太に注目。今回はあらかじめ脚本が決まっていただけに、アドリブ演出は封印されたものの、子ども特有の純粋さや危うさを見事に体現し、完璧といっていい演技で魅了する。特に湊役の黒川は、映画初出演というから驚きだ。
また、本作が遺作となった坂本龍一の音楽も外せない。時に不協和音を織り交ぜた、不穏ながら染み渡るようなピアノの静謐な旋律が物語の扉を開ける。なお、坂本は依頼を受けた時、既に体力がほとんどなかったが作品を見て以来を引き受けたとのこと。本作にはオリジナル曲2曲のほか、坂本の最後のアルバム『12』からも使用されており、坂本の入魂の一音が観客の心を揺さぶること間違いなしだろう。