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マイノリティーを作劇に利用することの危険性

©2023「怪物」製作委員会
©2023怪物製作委員会

と、ここまで書けば、まずは本作が超絶傑作であることがお分かりいただけるはずだ。その上で最後に、あえて筆者なりの正直な感想を以下にのべたい。

まずは、脚本が強引&詰め込み過ぎだ。とくに中盤は前半の伏線回収に終始してしまっている感があり、見終わった後に「あれ、結局どうなったの?」という感じるシーンも散見される。また、要素を詰め込み過ぎているせいで、本作がマイノリティに関する物語なのか、人間の思い込みや認識の誤謬をめぐる物語なのか、コンセプトが曖昧になってしまっている。

当初、本作の脚本は3時間あったという話もあり、このあたりは脚本の坂元の「気合いが入り過ぎた」ともいえるかもしれない。

また、カンヌ国際映画祭では脚本賞と並行して「クィア・パルム賞」を受賞した本作だが、LGBTQの表現がリアルかといえば疑問である(本作の描写がはっきりとLGBTQの表現に該当するかも疑問だが)。加えて、本作には明らかに発達障害(ASD、LD)の特性を持った人物が登場するが、こちらの描写も症例集をそのまま引用した感が否めない(こんなことを言うのは、筆者自身が発達障害当事者だからだ)。

「マイノリティを消費している」と言うつもりはないが、人間の思い込みや認識の誤謬が本作のメインテーマであるならば、登場人物がマイノリティである必要はない。そのため、「脚本を面白くするための装置」と言われても仕方ないのではないだろうか。

とはいえ、こういった欠点も、本作が傑作である副産物に過ぎないし、両雄並び立たずの言葉通り、名匠同士がタッグを組んだ場合、お互いが才能を邪魔してしまうことも多い。その点、本作は、天才同士がタッグを組んだ類い稀なる傑作と言えるだろう。2回、3回と映画館に足を運んでほしい一作だ。

(文・柴田悠)

【作品情報】

■キャスト:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 / 高畑充希 角田晃広 中村獅童 / 田中裕子
■監督・編集:是枝裕和『万引き家族』
■脚本:坂元裕二『花束みたいな恋をした』
■音楽:坂本龍一『レヴェナント:蘇えりし者』
■企画・プロデュース:川村元気 山田兼司
■製作:東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福
■配給:東宝 ギャガ
公式サイト

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