現代文明への鋭い批判精神ー脚本の魅力
本作の最大の魅力は、なんといっても主人公ナウシカのキャラクターだろう。幼い頃から自然を愛し、自身の身を犠牲にしても人間と自然双方に分け隔てない愛情を注ぐ彼女。本作は、そんな彼女の博愛精神が軸となって進んでいく。
宮崎は、漫画版のあとがきで、ナウシカのモデルとなった物語について触れている。それは平安時代後期に書かれた短編物語集『堤中納言物語』に収められた「虫めづる姫君」に登場する姫君だ。この物語は、身なりも整えず、毛虫などの気持ち悪い虫を日がな観察している「残念な姫君」について描かれたエピソード。
普通であれば笑い話として看過されそうな物語だが、宮崎は彼女に強い好奇心と鋭い美的感覚を見て取り、「ナウシカ」というキャラクターに昇華させたのだ。
そんなナウシカの博愛精神がセリフとして表現されているのが、ナウシカたちが乗る飛行船団がアスベルの襲撃を受けて腐海の真ん中に不時着したシーンだ。ナウシカに銃口を向けるクシャナに対し、ナウシカは次のような言葉を投げかける。
「あなたは何をおびえているの?まるで迷子のキツネリスのように」
原作漫画では、クシャナが幼い頃に蟲に襲われた経験があるというエピソードが登場する。つまり、クシャナは、自らの恐怖心から腐海の破壊を企てているのだ。
とはいえ、トルメキアもペジテも、完全なる悪ではなく、両者の行動にはそれぞれ「蟲の無い世界を作りたい」「トルメキアから街を守りたい」という思いがある。ここには、「戦争は単なる勧善懲悪ではない」という宮崎駿のメッセージが込められているといえるだろう。