「理屈ではなく深いところで共鳴してもらえたら」
奥田監督が語る観客に対する“礼儀”とは
―――登場人物の一人は漫画家を目指しています。漫画のコマ割りによって登場人物の空想を描く演出がとてもユニークでした。普段から漫画は読まれますか?
「漫画は『よつばと』しか読まないですね。『よつばと』、大好きなんですよ。
話はややズレますが、漫画家志望の男と劇団員の女性をカップルにしたのには理由があるんです。私の偏見ではありますが、恋愛関係になった時、女性は好きな男性の前で女優さんみたいになっている時があるなと思ったんですよ。一方、男はどこか夢想的で漫画家のようである。
また、女性は意識しないところで、男に対して感情をコントロールしている部分があると思うんですけど、男は女性を前にすると子供が駄々をこねるようなところがある。今申し上げたのは、あくまで私個人のイメージではありますが、そうしたイメージを基に、2人の職業を決めていきました」
―――漫画制作のシーンがリアリティにあふれ、血の通った場面になっていると思いました。漫画家役でご出演されているラッパーの呂布カルマさんは、以前漫画家を目指していた過去があるそうですが、現場で意見をもらったりしていたのでしょうか?
「呂布さんはすごく絵が上手くて、奥さんが現役の漫画家なのもあって、色々アドバイスをいただきました。でも、あのシーンはロケ地がなかなか決まらなくて。お金もなかったので、スタッフの家の2階に全て詰め込んだんですよ。狭いところにいろんなモノをギチギチに詰めているから生活感が出たのかもしれません」
―――なるほど。ちなみに、第一部に登場する中華屋のパートの女の人の家は、もしかしたら監督の家なのかなと推測したのですが…。
「いや、あそこは、和泉多摩川で見つけたロケセットです。不動産屋いわく『ここに住んでいたのは全部母子家庭です』ということだったので、物語の設定とリンクしているし、ピッタリだなと。ただ、一泊したんですけど、ゴキブリが大量発生するわ、近所にスタッフの車に因縁つけてくる奴がいるわと、まるでスラムのようでした(笑)」
―――暴力やお芝居を撮ることのみならず、ロケ地選びにおいても、映画を満たすすべての要素を血の通ったものにしたいという監督の強い意思を感じます。
「今村昌平もセットが大嫌いだったじゃないですか。私の師匠は今村昌平の助監督に付いていて、私は勝手に今村昌平の孫弟子だと思ってるんですけど。
誰とは言いませんが、現在の監督の作品を観ていると、映画として割り切って撮っているなという感じがして、冷めてしまいます。登場人物が歩んできた人生とこれからの人生を感じさせないと、観る人は没入してくれないですよね。私はそれが観客に対する礼儀だと思っています」
―――インタビューの最後に、これから本作を観る方に向けてメッセージをお願いします。
「こう感じてほしいとかはあまり言いたくないですね。バイアスなしに観てほしいです。理屈ではなく深いところで共鳴し合うことが本当の感動だと思うので。
私はTHE HIGH-LOWS世代なんですけど、若い時に彼らの演奏を観た時の、理屈なく涙が出るような感覚、あれがいわゆる共鳴ですよね。ああいう感覚になってもらうのが理想だと思うので、できるだけピュアな状態で観てほしいです。
でもこういうこと言うと、『じゃあ行かねぇよ』って言われそうなので…“監督が借金で大変なのでぜひ観に来てください”といったところでしょうか(笑)」
(取材・文:山田剛志)
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