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根底に流れる人間中心主義への懐疑

菅田将暉
菅田将暉Getty Images

眞人は、転校先の学校にいきなり父の車で登校したことで、仲間外れにされケンカした末、自らの側頭部に石で傷を付ける。結果、愛息が負傷させられた上に不登校に陥ったことで、父は学校に激怒。社業とは反して軍国主義的な教育に否定的なこともあり、眞人が学校に行かないことを認める。疎開先は7人もの家政婦が常駐している大屋敷だが、眞人は満たされない日々を送る。

そんな時、彼の前に、言葉を話す鳥(アオサギ)が現れる。アオサギを追い払おうとする眞人は、勢い余って積み上げてあった本を、床に落としてしまうが、その中の1冊が、タイトルの由来となった書籍『君たちはどう生きるか』(1937)。表紙の裏には母からのメッセージが添えられていた。

このシーンでは、主人公の部屋の山積みになった書籍が崩れるのだが、その中に、古代ギリシアの寓話作家・アイソポスが作ったと伝えられる動物寓話集「イソップ物語」が入っている点も見逃せない。

後に主人公が迷い込む塔の中の世界では、現実世界とは異なり、鳥(インコ)が生態系の頂点に位置しており、人間は捕食の対象となっている。踏み込んだことは言えないが、本作の世界観に「イソップ物語」が与えている影響は少なくないだろう。また、本作の描写の端々から人間中心主義的な価値観への懐疑が感じられるという点も付記しておこう。

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