杏(紫夏)はビジュアル面の違和感を超える演技を披露
紫夏は、戦争で両親を失うなど、壮絶な過去をもつキャラクター。登場するのは『キングダム 運命の炎』のみ。裏商人であり、冷静沈着かつ、内面は情に熱い女性だ。
嬴政の過去エピソードのみの出演だが、彼女のおかげで嬴政が本来の感情を呼び戻すということもあり、最新作における超重要キャラクターである。
紫夏は、嬴政と同じくらいの年の頃、命を救われた経験があり、「受けた恩恵は返しなさい」と言う教えの元に生きてきた。彼女はその教えを守り、今度は自ら命を張って嬴政を守り抜こうとする。両者の交流は束の間ではあるが、今の嬴政の、国王としての基盤は、間違いなく紫夏と過ごしたひと時によって形作られていると言っていい。特に原作でも名場面として名高い、共に月を見る場面は、『キングダム 運命の炎』のハイライトの一つだ。
上記のシーンが素晴らしい出来栄えになったのは、紫夏を演じる杏の見事な演技力の賜物だろう。清楚な佇まいと、馬車を走らせる場面でみられる勇ましい姿のギャップがたまらない。筆者は心の中で思わず「あんたは、ナウシカか!」とツッコミを入れてしまった。
原作キャラと杏のビジュアルは特にそっくりというわけではない。しかし、内に秘めた芯の強さをごく自然に嫌味なく表現するという点では、当代では杏の右に出る女優はいない。その点、杏を起用した制作陣の選球眼に、やはり唸らざるを得ない。