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何が足りない…? “有毒な男性性批判”に違和感を覚えるワケ。映画『バービー』徹底考察&レビュー。賛否両論のラストも解説

text by 冨塚亮平

世界的に人気なアメリカのファッションドールの世界を、マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリングで実写化した映画『バービー』が公開中だ。日本公開前にSNSでの炎上騒動で話題になった本作。今回は、物語構成や演出に着目し、本作の魅力と問題点に切り込むレビューをお届けする。(文・冨塚亮平)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】

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多様性への配慮と対立しかねない題材を
老若男女が楽しめる娯楽作品へと落としこむ

©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
©2023 Warner Bros Ent All Rights Reserved

設定と脚本は、周到すぎるほど周到に考え抜かれてはいる。だが映画『バービー』の周到さ、あるいは隙のなさはむしろ、作品に何が欠けているのか、作中でどんな前提が問いに付されることなく温存されているのかを、かえって浮き彫りにする結果を招いてしまったのではないか。この短評では、その個人的な違和感の内実について、いくつかの映画への迂回も交えつつ考えてみたい。

たしかに『バービー』は、一見多様性への配慮と対立しかねない題材を、あらゆる人種、ジェンダーの老若男女が楽しめる娯楽作品へと落としこむための工夫に溢れている。

まずは序盤を彩るバービーランドについて手短に確認しよう。すべてが完璧で夢のような毎日が続くピンク色の世界として描かれる、バービーランドのポスト・フェミニズム的な世界では、多様な人種、ジェンダー、体型の女性(=バービー)たちが大統領や医者、弁護士などの要職につき、それぞれに活躍している。この設定は、バービー人形を制作・販売するマテル社が、それまで理想的な体型の白人女性を主なモデルとしてきた方針を改め、2016年から発売を開始した「ファッショニスタ」シリーズ以降、多様なバービーを市場に投入し成功を収めてきた経緯を踏まえている。

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