時代背景や設定が抜群
日本映画がふたたび世界に羽ばたくために
“世界に張り合えるアクション映画”を目指して制作されたことを先述したが、日本の良さを活かした設定と、細部までこだわり抜かれた美術や衣装、俳優の芝居、どれを取っても十分海外の作品と闘っていけるのではないかと感じた。
本作の舞台である大正時代の、レトロモダンな東京の街並みの美しいことと言ったらない。そこに暮らす人々も、美しい着物を身にまとい、それに負けないくらいピンと張りつめた背筋に惚れ惚れしてしまった。
そして肝心なアクションシーンだが、街中でも銃を撃ちまくる。およそ100年前の物語とはいえ、陸軍が民間人に向けてあれほど遠慮なく銃をぶっ放していいのかと心配になるが、迫力は凄まじく、思わず息を飲む瞬間も多々ある。
ラストシーンは純白の衣装に身を包んだ小曽根百合が、汚れや血を厭わずに闘いまくるのが最高にかっこいい。
ただひとつ疑問なのが、銃で撃たれまくった登場人物が普通に立って歩きまわる演出には疑問を感じた。こうした、リアリティーを欠いたアクション描写は、低予算の日本映画でありがち。ある種の香港映画などでは、確信犯的に現実離れしたアクションを入れることでユーモラスな効果を発揮する場合もあるが、本作にはそうした工夫は見受けられなかった。
また、脇役が脇役としての存在感しか発揮しない点に、単純さを感じてしまった。モブだからすぐに死ぬのは当然といえば当然だが、作品の中に生きている感じがせず、用意された感が拭えない。
とはいえ、以上の指摘はないものねだりに過ぎない。映画としてのクオリティは申し分なく、ハリウッドどころか隣国にも後れをとっている日本のエンターテインメントが、再び世界に羽ばたく気運を感じさせる作品となっている。ぜひ劇場で堪能してほしい。
(文・野原まりこ)
【作品情報】
監督: 行定勲
原作:長浦京
脚本:小林達夫、行定勲
出演:綾瀬はるか、長谷川博己、羽村仁成、シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、ジェシー、佐藤二朗、吹越満、内田朝陽、板尾創路、橋爪功、石橋蓮司、阿部サダヲ、野村萬斎、豊川悦司、鈴木亮平
企画:紀伊宗之
撮影:今村圭佑
照明:中村裕樹
編集:今井剛
音楽:半野喜弘
2023年製作/139分/G/日本
配給:東映
©︎2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
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