「広島の歴史は避けては通れない」
映画の端々に隠された“隠し味”
―――中村久美さん演じる中野さんは、原爆の被害者であるという設定です。広島の歴史をドラマに盛り込んだのは、どのような思いがあったのでしょうか?
「瀬戸内海を舞台に、戦時中を知る年配の方の物語を作るとなった時に、原爆の歴史は避けては通れないということで、そこら辺は自分の中できっちり考えて描かせていただきました。そこで暮らしている方に失礼のない物語にしたいなと思ったんです。
それと同時に、若い人たちがこの映画を観た時に、『映画として何か引っかかるぞ』と感じてもらえたら嬉しいなと思い、歴史的な要素を加えたというのもあります。この映画の隠し味と言っていいでしょうか。それを感じてもらえたら嬉しいですね」
―――辰雄と中野さんが船で別れた後、視点は辰雄ではなく、中野さんの方にフォーカスし、彼女が家にたどり着くまでをロングショットを駆使して、丹念にお撮りになっておられます。帰宅した彼女が“被爆者への健康診断のお知らせ”を机に置くショットには、ハッとさせられました。
「中野さんが一人ポツンと坂道を登っていく引きの画は僕も好きで、あそこで暮らしているんだなというのが鮮明に伝わりますよね。タイミングを見計らって、雲の多い日を選んだんですけど、人生の寂しさや孤独を抱えつつ、でもしっかりと生きている。坂を上って家に辿り着いて、藤さんが渡した豆腐を食べた時にふっと表情がほころぶ…。僕が映画として描きたかったシーンです。人との出会いが心を潤していく。そういう瞬間を捉えることにチャンレンジしたいなと思ったんです」
―――とても短いシーンでしたが、まさに先程監督が仰った「映画として引っかかる」シーンだと思いました。話は変わりますが、藤竜也さんは中村久美さんとの別れのシーンで、“バイバイ”と手を振るのではなく、手をぎゅっと握るような仕草をしていましたね。あれも藤さんのアイデアでしょうか?
「これも藤さんのアイデアです。作品のテイストを変えずに、あの手この手で、ご自身のお芝居を付け足してくれる。ああいうことを自然にできるのが藤さんの好きなところですし、藤さんと映画を作ることの楽しみですね」
―――辰雄のチャーミングな一面がとてもよく出ていました。映画終盤には、病院のカフェスペースで辰雄が大立ち回りを演じるシーンがあります。このシーンでは、序盤に出てきた女子高生が再登場して、場面を締めくくるセリフを言います。素朴な質問ですが、このシーンで彼女を再登場させたのはなぜでしょうか?
「若い子が、世代の異なる大人が奮闘する姿に触れ、応援する気持ちをかき立てられる。彼女と同世代の若い観客にもシンパシーを感じてほしかったのです。また、客観的に場面を見ている第三者の視点を入れたいという思いもありました」
―――中村久美さんが帰宅する様子を捉えた引きのショットに通じるといいますか、客観的な視点が入ることで、映画を豊かにしていると思いました。
「主人公たちとは世代の異なるセーラー服の学生の視点がポンと入ることで、客観性が出ますよね」